お金の算数

ローンや資産運用について数学的見解を交えて考察しています

現代ポートフォリオ理論の実践【2/2】

今回は以下の記事の続きです。

 

dic-eft-sr3.hatenablog.com

 

それでは、実際のデータを使ってポートフォリオを作っていきましょう。

今回は株式会社イグニスというマザーズ上場の小型株と日経225に連動するインデックスファンドの2つでポートフォリオを作っていきます。もちろん、構成比は現代ポートフォリオ理論に基づき求めます。

具体的に以下の3ステップで進めていきます。

  1. 過去のデータからイグニスと日経225リターンとリスクを求める
  2. 2つの資産によるさまざまな組入比率でのポートフォリオを作成し、それぞれの組入比率によるポートフォリオ自体のリターンとリスクを計算していく
  3. 「2」で計算したそれぞれの構成比率の中から最適なものを求める

なお、この記事の分析については石野雄一著『道具としてのファイナンス』を参考にしています。

 

ステップ1:それぞれのリターンとリスクを求める

はじめに今回使用するデータについて説明しておきます。株式会社イグニスおよび日経225の株価は楽天証券のMarketSpeedより2015年1月から2020年12月の月次データを使用します。それぞれの平均リターンやリスクは以下のようになりました。イグニスはリターンが高いが、リスクは大きなハイリスク・ハイリターンです。それに対し、日経225はイグニスに比べリターンもリスクも低く、ローリスク・ローリターンであることがわかります。

 

  イグニス 日経225
平均リターン 3.13% 0.75%
分散 0.1216 0.0027
リスク(標準偏差) 34.88% 5.17%

 

 

ステップ2:ポートフォリオのリターンとリスクを求める

続いてイグニスと日経225で構成されるポートフォリオのリターンとリスクを様々な構成比率で求めていきましょう。一般的に株式Aと株式Bにより構成されるポートフォリオの平均リターンと分散の計算式は以下の通りです。

 

 

平均リターン

E({R_p})={W_A}{E({R_A})}+{W_B}{E({R_B})}={W_A}{E({R_A})}+(1-{W_A}){E({R_B})}

 

分散

V({R_p})={W_A}^2{V({R_A})}+{W_B}^2{V({R_B})}+2{W_A}{W_B}Cov({R_A},{R_B})

 

イグニスと日経225の共分散は0.0044で、相関係数は24.79%でした。これらの数値から実際に様々な構成比率での平均リターンやリスクをまとめた表が以下になります。

 

イグニスの
組入比率
平均リターン 分散

リスク

(標準偏差)

0% 0.75% 0.0027 5.17%
10% 0.99% 0.0042 6.46%
20% 1.23% 0.0080 8.93%
30% 1.47% 0.0141 11.88%
40% 1.71% 0.0225 15.01%
50% 1.94% 0.0333 18.24%
60% 2.18% 0.0463 21.52%
70% 2.42% 0.0617 24.84%
80% 2.66% 0.0794 28.17%
90% 2.90% 0.0993 31.52%
100% 3.13% 0.1216 34.88%


 また、縦軸が平均リターン、横軸がリスクのグラフに構成比率を1%ずつ変化させていったときの関係を表しました。

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図1:ポートフォリオの平均リターンとリスク

 現代ポートフォリオ理論の参考書では以下のように顕著にカーブを描いているものが例として使われています。

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図2:参考書でみるポートフォリオのグラフ

ではどうして、実際のデータからは図2のような大きなカーブを描かなかったのでしょうか?

原因の一つとして相関関係がそこそこ高かったことが挙げられます。今回使ったデータでの相関係数は24.79%でした。前回、数式から解説したようにポートフォリオの分散は低ければ低いほど小さくなります。つまり、負の相関関係があればあるほどポートフォリオ効果が働き、リターンを維持しつつリスクを抑えるポートフォリオを構成することができるのです。

また、イグニスと日経225ではリターンとリスクを評価すると全体して日経225がイグニスに比べ、大幅に効率的であることも原因の一つとして考えられます。評価の方法については次の節で解説したいと思います。

 

ステップ3:最適な構成比率を求める

 最後にポートフォリオの最適な構成比率を求めていきましょう。そもそもポートフォリオを構成するにあたって最適とはどのような状態のことを言うのでしょうか?

 

それはもちろん、リターンが大きくてリスクが小さくなると投資家にとって(少なくとも私にとっては)よりうれしくなります。図1や図2のグラフでは左上に行けば行くほどうれしくなります。ちなみに私のようなリターンが同じであれば、できるだけリスクを最小にしたいと思う人をリスク回避型といいます。世の中にはリスクにこだわらないリスク中立型や、むしろリスクを好意的に許容するリスク愛好型の人たちもいるでしょう。しかし、大抵の投資家はリスク回避型で、現代ポートフォリオ理論も暗黙の了解としてリスク回避型の投資家にとって最もうれしくなるように理論立てています。

 

さて、ステップ2で様々な構成比率でのポートフォリオを作りましたが、図1でのどの点を選ぶべきでしょうか?

最低でも同じリスクであればリターンの高い方を選びます。図1で描かれている曲線は全額投資したうえでの、構成比率となっています。その中でもリスクが同じでもリターンが2種類以上とれる点があります。それならリターンが大きい点を選ぶのが良いといえます。また、曲線上でなくても図3の点pのようなポートフォリオを作れることは作れるのですが、同じ理由で結局曲線上の上の部分がリターンが大きくなります。このように、図3の太線の部分を「効率的フロンティア」と呼びます。

 

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図3:効率的フロンティア

効率的フロンティア上に最適な構成比率があることはわかったが、さらにここから最適な点を選んでいきましょう。そこでいきなりですが、リスク・フリーレートというものを考慮していきます。

リスク・フリーレートとは名前の通り、リスクがない資産のことです。多くの場合、10年物の国債が使われます。2020年12月時点の10年物国債のレートは0.045%です。つまり、リスクが全くない場合でも最低0.045%のリターンを期待できるということです。

この10年物国債ポートフォリオに加えたうえで、効率的フロンティア上で10年物国債の比率が0になる点が最適な構成比率のポートフォリオとされています。また、リスク・フリーレートと効率的フロンティアが接する点で結ばれている線を「資本市場線」と呼ばれています。(図4参照)

 

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図4:資本市場線と最適なポートフォリオ

資本市場線はx軸をリスク、y軸をリターンとした座標での一次関数です。

一次関数は一般的に

 

y=ax+b

 

という式で表します。bのことを切片といいますが、資本市場線ではリスク・フリーレートがそれにあたります。また、aは傾きですが資本市場線では

 

\frac{ポートフォリオの平均リターン-リスク・フリーレート}{ポートフォリオのリスク}

 

になります。これをまとめると資本市場線は

 

y=\frac{ポートフォリオの平均リターン-リスク・フリーレート}{ポートフォリオのリスク}x+リスク・フリーレート

 

と書くことができます。

 

何度も言うように最適なポートフォリオとは、リスクを抑えたうえで最もリターンを享受できるものを言います。したがって、以下のように計算する値が大きければ大きいほどポートフォリオとして優秀であると評価できます。

 

\frac{ポートフォリオの平均リターン-リスク・フリーレート}{ポートフォリオのリスク}

 

この値のことをシャープレシオといいますが、これが資本市場線の傾きであることがわかります。結局、このシャープレシオが最大となる値を求めることが、資本市場線と効率的フロンティアの接点を求めることになります。

 

それでは、実際のデータではどのような結果になるのでしょうか?Excelのソルバー機能で求めてみましょう。

 

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図5:シャープレシオと最適な構成比率

 

図5がシャープレシオと最適な構成比率の計算結果です。

結果としては日経225に9割ほど投資することが最適な構成比率となりました。

 

この結果からやはりインデックスファンドの優秀さを実感しました。投資家のバイブル本でもあるバートン・マルキール著『ウォール街のランダムウォーカー』でもインデックスファンドへの長期投資が最適であると述べていました。

 

今回の分析からインデックスファンドへの積み立て投資を今後もしっかり続けていきたいと思いました。また、個別株に手を出すのは控えようと思います。

仮に買うとしても決算書や企業の経営について入念に分析して、絶対の自信があるときだけにします。株主優待や配当を目的に個別株を買う人も多いと思います。そんな人たちはインデックスファンドへの投資よりも、その配当や株主優待のほうがメリットがあるという根拠も持ったうえで投資していきましょう。