財務・株式指標の情報をまとめてみた
目次
はじめに
最近、美容に気を使うようになり定期的に洗顔料や化粧水などを購入するようになりました。しかし、これらの製品は少々高いと思っていました。そんなことに悩んでいたころ、たまたま株主優待だけで生計を立てている方をテレビで見かけました。これもたまたま、最近つみたてNISAをはじめいたので証券口座は開設できていました。善は急げということで早速、美容品の株主優待を出している銘柄を探しました。
一番良さそうだったのが、男性用美容品のギャツビーなどで有名なマンダムでした。権利確定日が近づいていたので、あまり深く考えずにすぐに買い注文をしました。時期がたまたま良く比較的安値で取得でき、少しずつではありますが現在進行形で株価が上昇しています。
ただ、やはり持ったからには長期的に所有しておきたいと思っていますし、財務情報や株式指標などを把握しておこうと思いました。普通は株を買う前に行うことですが・・・
調べてみると、財務内容はもちろん、PERやPBR、配当利回りなど多くの情報がありすぎて、どの指標が重要でどう評価すればいいのか全然わかりませんでした。もちろん、一つ一つ指標の意味を勉強していけばいいのですが、正直面倒くさいと思いました。
マンダムの株価がこれから上がっていくのか、少なくとも上がらなくても株主優待の分、得できるのかだけでも分かればいいのです。
そこでこの記事では多くの財務・株式指標の変数をまとめて、総合した新しい特徴を持った指標をつくり、できるだけ少ない変数で銘柄を評価できるように分析をしていきたいと思います。
分析方法
今回は主成分分析を行っていきます。この分析を行うことによって、多数の変数を少数の総合指標に集約することができます。
統計学的には変数間の相関を排除し、できるだけ少ない情報の損失で、多くの変数により記述された量的データを少数個の無相関な合成変数に縮約します。
分析手法の詳細については専門書を参照してください。最低限知っておくべき用語や結果の解釈については実際の分析結果とともに解説していきたいと思います。
それでは具体的なデータや分析方法について説明していきます。
結論として知りたいのはマンダムの総合的な評価です。同業界と相対的に比較するために分析する対象は
「東証に上場している化学業界で財務情報や株式情報が取得できる銘柄」
にします。銘柄の情報は楽天証券のMarket Speedで取得しました。現在2021年2月時点のデータで上記の条件満たしていたのは209銘柄でした。
変数と使用する財務・株式指標は以下の10個です。
- 売上
- 当期利益
- 売上高利益率
- 売上高成長率
- 利益成長率
- 一株当たり利益
- 株価収益率
- 株価純資産倍率
- 配当性向
- 配当利回り
いずれも2021年2月時点で取得できた最新のデータを使用しています。
分析はで統計ソフトRのprcomp関数を使いました。
結果
Rにて出力した結果についてみていきます。
図表1ではprcomp関数の詳細をsummary関数で出力された結果です。
それぞれの変数は先ほど紹介した指標を以下のように省略して記しています。
- sales・・・売上
- profit・・・当期利益
- P.S・・・売上高利益率
- SG・・・売上高成長率
- PG・・・利益成長率
- EPS・・・一株当たり利益
- PER・・・株価収益率
- PBR・・・株価純資産倍率
- DPR・・・配当性向
- DY・・・配当利回り
PC1~10は第1~10主成分負荷量です。主成分負荷量は統計学的には固有ベクトルのことを言い、それぞれの主成分ともとの変数との相関係数になっています。
具体的にみるためにPC1の第一主成分に注目してください。ここでは"sales"の0.6053や"profit"の0.6482が主成分負荷量の絶対値として大きくなっています。つまり、第一主成分は売上や利益が大きければ、第一主成分の得点が低くなるということがわかります。したがって、第一主成分は銘柄の規模を示す指標と解釈できます。なお、それぞれの主成分負荷量は符号を逆転しても同じ意味になります。「大きくなれば低くなる」というのはわかりにくいので「大きくなれば大きくなる」と解釈できるように正負逆にして主成分負荷量を出力し直します。その結果が以下の図表2です。
これだと売上や利益が大きければ、第一主成分(規模)が大きくなるとわかりやすくなりました。
さらにここで注目して頂きたいのが、図表2の上部にある"Proportion of Variance"と"Cumulative Proportion"です。
"Proportion of Variance"は寄与率と呼ばれるもので、主成分負荷量のベクトルに対応する固有値です。例えば、PC1の第一主成分の寄与率は0.184となっています。これは全体の情報のうち第一主成分だけで18.4%の情報が説明できることを意味しています。
売上、利益、・・・の10個の指標で合計100%の情報があるなかで第一主成分の数値だけ分かれば、とりあえず全体のうち18.4%の情報がわかるということです。第二~十主成分についても同じです。ただ、0.184→0.157→0.117→・・・というように主成分が増えるごとに情報量が逓減していきます。
もちろん、指標を減らすことが目的なので、10個の指標があるのに10個の主成分で説明してもあまりうれしくありません。そこで注目して欲しいのが"Cumulative Proportion"です。これは累積寄与率と呼ばれるもので、第一~十主成分まで順番に寄与率を足していった値です。この値に注目すれば何個の主成分でどれだけの情報が説明されるのかがわかります。このことを視覚的にわかるのが図表3のスクリープロットです。これは寄与率による情報量の累積度合いを示しています。
今回の結果で言えば、PC6の第六主成分の累積寄与率が0.7635となっており、6個の主成分ですでに76.5%の情報が説明できていることがわかります。どれだけの累積寄与率で主成分の数を減らすかは分析者の判断に依ります。一般的には70~80%程度説明できたところで変数を選んでいる例をよくみます。ここでも第六主成分の時点で70%を超えているので、ここまでの主成分で分析を進めていきたいと思います。
最後にそれぞれの指標の主成分によるデータの位置づけがわかる図表4を説明します。視覚的にわかりやすくするために、第一、第二主成分だけで説明します。プロットされている数字は各銘柄の番号がプロットされています。横軸は第一主成分の因子負荷量、縦軸が第二主成分の因子負荷量となっています。先ほども言った通り符号が逆転していますが、sales(売上)やprofit(当期利益)のベクトルが右に大きく伸びていることがわかります。つまり、「22」「130」「102」の銘柄の第一主成分の得点が高いをわかります。
考察
結果を考察していきましょう。
まず、分析の目的であった
「多くの財務・株式指標の変数をまとめて、総合した新しい特徴を持った指標をつくり、できるだけ少ない変数で銘柄を評価できるように分析をしていきたい」
についてみていきます。
主成分分析を行ったことにより10個の指標を6個の主成分で76%説明できるようになりました。正直、あまりうれしい結果とは言えません。せめて半分の5個以下に絞り、累積寄与率についても80%以上は欲しかったところです。累積寄与率が主成分を増やしてもなかなか大きくならないということは、扱っていた指標それぞれに個別の意味があったと考えることができます。
それぞれの主成分についての意味づけについても考察してみます。第一主成分は先ほどもいった通り、会社の規模を表していそうです。第二主成分については株価純資産倍率・売上高成長率・株価収益率の値が大きくなれば得点が高いなり、逆に配当利回りが高くなれば得点が下がる傾向が見て取れます。売上高成長率は売上を伸ばして成長しているとわかりますが、その他の指標は何をあらわしているのかもみていきましょう。
- 株価純資産倍率(PBR)
まずは株価純資産倍率をみていきましょう。算出方法は以下の通りです。
この指標によって株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているか、すなわち1株当たりの純資産の何倍の値段がつけられているかをみる指標です。この数値が低い方が企業の資産価値と比べて、株価が低くなっているので株を買う際には割安になっていると判断できます。ちなみに今回取得したデータでは平均1.98倍になりました。
- 株価収益率(PER)
続いて、株価収益率についてみていきます。計算は以下の通りです。
これは株価が1株当たり純利益の何倍で買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかをみることができます。現在の株価が企業の利益水準に対して割高か割安かを判断する目安になります。数値としては低い方が割安です。同業界内で相対的に比較していく必要があります。今回取得したデータでは平均27倍でした。*1
配当利回りは購入した株価に対し、1年間でどれだけの配当を受け取ることができたかを示す数値です。
配当金額が同じで購入株価が高いと配当利回りは下がり、購入株価が低いと配当利回りは上がります。また、購入株価が同じで配当金額が大きいと配当利回りは上がり、配当金額が小さいと下がります。取得したデータの平均は1.98%でした。
企業にとって配当政策は異なります。配当が無いからといって評価を下げてはいけません。例えば、成長企業であれば利益は配当に回すのではなく、次の事業での資金として確保するでしょう。また、逆に安定した企業で事業への投資機会が少なければ、配当を高くし着実な資金確保を維持するために株主への配当を還元する傾向があります。
以上の指標の特徴を考慮したうえで第二主成分を見てみると
- 売上が年々上がっている
- 純資産や利益に対して株価が割高になっている
- 配当金額が少ない(事業に再投資している)
これらの特徴から企業の成長性を表していると考えられそうです。
他の主成分についても検討していきたいのですが、長くなるので割愛します。
最後にマンダムの評価をしていきます。図表5はマンダムの財務・株式指標、第一~六主成分の負荷量、マンダムの主成分得点を計算したものになります。
今回は取得してきた財務・株式指標は原データを標準化しています。したがって、主成分得点の平均は「0」で、標準偏差は「1」となっています。
主成分得点をみていくとすべての得点で可もなく不可もなくという結果です。寄与率が高く、絶対値の大きな得点に注目すると第二主成分が低いことがわかります。つまり、先ほど第二主成分の考察から言えば、マンダムに成長性があまりないと考えられそうです。
まとめ
今回は主成分分析で財務・株式指標の集約と保有している銘柄の評価を試みてきました。結果としては指標の集約はあまりうまくできず、それぞれの指標に意味があるとわかりました。はじめはそれぞれの指標を調べるのが面倒くさいから総合的な指標を作ろうとしていたのに、結局分析を解釈するためにそれぞれの指標について調べいたので詳しくなってしまい、なんとも皮肉なことになりました。
保有している銘柄のマンダムを、新たに作った指標(主成分)で評価しました。分析から少なくとも成長性はなさそうということだけはわかりました。ただ、逆に安定はしているとみることもできます。ということで株主優待分は得できそうなのでマンダムの株はこれからも保有していこうと思います。なんとも歯がゆい結果になってしまったが、マンダムの特徴がわかっただけでもよしとします。
*1:赤字企業は除いて平均を計算しました。