お金の算数

ローンや資産運用について数学的見解を交えて考察しています

犠牲バントの損益分岐点 ~計算構造の考察~

 

はじめに

昨今のプロ野球ではデータを戦略に役立てるセイバーメトリクスが活用されています。

そのセイバーメトリクスを最近のトピックスも取り上げながら非常に分かりやすく解説している書籍が出版されました。それが鳥越規央氏が上梓した『統計学が見つけた野球の真理 最先端のセイバーメトリクスが明らかにしたもの』です。

この書籍で犠牲バント損益分岐点について解説されていました。会計学にて使われている損益分岐点については知っていましたが、野球に活かされていたことは知りませんでした。

 

この記事では会計学統計学と野球に関心のある私が会計学と野球それぞれの損益分岐点分析について解説していき、計算構造の共通点について考察していきます。

 

会計学での損益分岐点

まずはじめに一般的な損益分岐点分析について説明していきます。

損益分岐点分析は主に管理会計で利用されている分析手法です。

 

売上がいくらになれば、費用を回収できる利益を出せるかを求めるためにつかわれます。

 

例えば売上に比例して増加する変動費が売上100%に対して40%、売上に関係なく発生する固定費が300万円だったとします。この場合、どれだけの売上があれば営業損益(売上高-変動費-固定費)の値がちょうどゼロになるでしょうか。

 

売上から変動費を引いた値を貢献利益といいます。また、貢献利益を売上で除した値を貢献利益率といいます。

この問題は貢献利益で固定費をすべて回収するにはいくらの売上を上げればいいのかを求めることと言い換えられます。

ですので、以下のように計算するとすべての固定費をちょうど回収できる売上を求めることができます。

 

\frac{固定費}{貢献利益率}=\frac{300}{0.6}=500

 

わかりにくいと思いますので、グラフにしてみましょう。

 

図1:貢献利益図表

図1をみればこの問題は単純な一次関数の問題であるとわかります。

横軸の「売上」をx、縦軸の「収益・費用」をy、貢献利益率である0.6を傾き、固定費である-300を切片として考えると

 

y=0.6x-300

 

という式になります。損益分岐点y=0となるxの値を求めればいいので、

 

0.6x-300=0\\x=\frac{300}{0.6}
 

と計算することになります。

 

結局、損益分岐点分析は単純な一次関数の問題に置き換えられます。

 

会計学での損益分岐点分析は、売上がどれほどであれば、変動費・固定費を合わせた費用よりも貢献利益が高くなるかを求めていました。

 

また、岡本(2000)では以下のような秀逸な表現で図1について解説していました。

 

われわれは今、海底深く潜って、300mの底にいる。このままでいれば、窒息するばかりである。したがってなんとか海面(横軸の示す水平線)まで浮かび上がらねばならない。この浮上は、販売して貢献利益だけ浮かび上がり、500万円販売すれば、300m浮かび上がって、ぽっかりと海面に顔をだし(固定費の全額回収)、800万円販売すれば勢い余って体が海面よりとびだす(利益の獲得)のである。このように海面に浮上する力は貢献利益率で示され、貢献利益線の勾配が急なほど、その会社の収益力が高いことを示す。

 

この引用の後半では800万円販売した場合についても言及されていますが、このように原価・営業量・利益の三者の全体の関係について分析する手法をCVP分析(cost-volume-profit anaiysis)といいます。したがってCVP分析は損益分岐点分析を含む広い概念と考えられることができます。

 

犠牲バント損益分岐点

続いて、鳥越(2022)にて紹介されていた犠牲バント損益分岐点について解説していきます。

 

まったくヒットが期待できないような打者にもバントをさせずに打たせるのが有効だというのか、という議論からどの程度の打者であれば、犠牲バントの方が有効になるだろうかを考えるのが「犠牲バント損益分岐点」と名付けられいるとのことです。

 

犠牲バント損益分岐点を具体的に計算し、その計算構造を解き明かして会計学損益分岐点分析と比較していきます。さらに、犠牲バント損益分岐点分析を犠牲バントのCVP分析まで概念を広げていきます。

 

今回は無死一塁から犠牲バントをする場合についてみていきます。

まずはじめに各アウトカウント・出塁状況での得点期待値*1を以下のように記述しておきます。

 

無死一塁での得点期待値 E_{0,一} (犠打をする前)

1死二塁での得点期待値 E_{1,二} (犠打成功)

1死一塁での得点期待値 E_{1,一} (犠打失敗)

 

また、無死一塁から犠打を成功・失敗したあとの得点期待値の差をそれぞれΔE_{1,二}ΔE_{1,一}と置きます。

 

犠打が成功する確率P(犠打成功)とします。

 

ここで知りたいのは、犠打という作戦を実行することによって得点期待値がどれだけ変化するかです。具体的な数字を当てはめて、確認していきましょう。

 

得点期待値および犠打の成功確率は鳥越(2022)にて使用されているデータを使います。

E_{0,一}=0.790

E_{1,二}=0.636

E_{1,一}=0.461

P(犠打成功)=0.836

以上から

ΔE_{1,二}=E_{1,二}-E_{0,一}=0.636-0.790=-0.154

ΔE_{1,一}=E_{1,一}-E_{0,一}=0.461-0.790=-0.329

 

よって、犠打による得点期待値の差ΔE_{犠打}は以下のように計算されます。

 

ΔE_{犠打}\\=ΔE_{1,二}・P(犠打成功)+ΔE_{1,一}・(1-P(犠打成功))\\=-0.154×0.836+-0.329×(1-0.836)\\=-0.183

 

以上の結果から監督が犠牲バントのサインを出した瞬間、得点期待値は0.183減少してしまうことがわかります。セイバーメトリクス犠牲バントが支持されていないのは、このような計算があったからだとわかります。

 

さらに悪い想定をしてみます。

先ほど計算された「ΔE_{犠打}=-0.183」という結果は視点を変えて捉えると、得点期待値の減少を「-0.183」に抑えたともいえます。

極端な話、犠打をせず必ず三振する打者の場合、得点期待値の差は

 

ΔE_{1,一}=E_{0,一}-E_{1,一}=-0.329

 

と計算されてさらに-0.183よりも0.146低い-0.329に悪化してしまいます。これに加えて、併殺の場合を想定すると得点期待値はさらに悪化します。

 

そこで無死一塁からヒッティングをすることで、犠打による得点期待値の減少(-0.183)よりもさらに減少させる打者の出塁率はどれだけか、を考えていきます。

これがまさに損益分岐点分析と同じの考え方で、バントの損益分岐点分析と呼ばれる所以です。

 

計算にあたっての条件は以下の通りです。

 

  • ヒットは単打のみ
  • 無死一塁での併殺の確率 P(併殺)=0.089
  • 無死一二塁での得点期待値 E_{0,一二}=1.307
  • 二死走者なしでの得点期待値 E_{2,無}=0.077
  • 凡打は一死一塁と一死二塁が1:1の頻度で起こると想定
  • 出塁率xとおく

 

これらの条件から

 

ΔE_{0,一二}・x\\+0.5・ΔE_{1,二}・(1-P(併殺)-x)\\+0.5・ΔE_{1,一}・(1-P(併殺)-x)\\+ΔE_{2,無}・P(併殺)\\\ltΔE_{犠打}\tag1

 

この式にx以外、具体的な数字を代入して計算していくと

ΔE_{0,一二}=E_{0,一二}-E_{0,一}=1.307-0.790=0.517

ΔE_{1,二}=E_{1,二}-E_{0,一}=0.636-0.790=-0.154

ΔE_{1,一}=E_{1,一}-E_{0,一}=0.461-0.790=-0.329

ΔE_{2,無}=E_{2,無}-E_{0,一}=0.077-0.790=-0.713

より、

 

0.517・x\\+0.5・(-0.154)・(1-0.089-x)\\+0.5・(-0.329)・(1-0.089-x)\\+(-0.713)・0.083\\\lt-0.183

 

x\lt0.127

 

となります。これが犠打の損益分岐点です。結局、出塁率が0.127以下であれば犠打をさせる方がましだと判断されます。

 

さて、会計学での損益分岐点分析とバントでの損益分岐点分析をさらに一般化して計算構造の本質を深堀していきます。

 

損益分岐点分析の本質は単純な一次関数でy=0Y=ax+bの交点を求めることでした。したがって、式(1)をax+bとなるように式変形していき、犠牲バント損益分岐点分析における変動費率(傾き)と固定費(切片)を求めていきましょう。

 

ΔE_{0,一二}・x\\+0.5・ΔE_{1,二}・(1-P(併殺)-x)\\+0.5・ΔE_{1,一}・(1-P(併殺)-x)\\+ΔE_{2,無}・P(併殺)\\\ltΔE_{犠打}\tag1

 

ΔE_{0,一二}・x\\+0.5・ΔE_{1,二}-0.5・ΔE_{1,二}・P(併殺)-0.5・ΔE_{1,二}・x\\+0.5・ΔE_{1,一}-0.5・ΔE_{1,一}・P(併殺)-0.5・ΔE_{1,一}・x\\+ΔE_{2,無}・P(併殺)-ΔE_{犠打}\\\lt0

 

(ΔE_{0,一二}-0.5・ΔE_{1,二}-0.5・ΔE_{1,一})・x\\+0.5・ΔE_{1,二}-0.5・ΔE_{1,二}・P(併殺)\\+0.5・ΔE_{1,一}-0.5・ΔE_{1,一}・P(併殺)\\+ΔE_{2,無}・P(併殺)-ΔE_{犠打}\\\lt0\tag2

 

式(2)より貢献利益率(傾き)は

ΔE_{0,一二}-0.5・ΔE_{1,二}-0.5・ΔE_{1,一}

で、固定費(切片)は

\\0.5・ΔE_{1,二}-0.5・ΔE_{1,二}・P(併殺)\\+0.5・ΔE_{1,一}-0.5・ΔE_{1,一}・P(併殺)\\+ΔE_{2,無}・P(併殺)-ΔE_{犠打}

であるとわかります。

 

式(2)に具体的な数字を当てはめて整理していくと

 

0.759x-0.098\lt0\tag{2'}

 

となります。式(2')から損益分岐点を計算すると以下のようになります。

 

\frac{0.098}{0.759}=0.129

 

したがって、出塁率が0.129よりも低い打者であれば犠打をした方が得点期待値減少を防ぐという点でまだ良いといえます。

 

式(2)の構成要素について考察していきましょう。

傾きである

ΔE_{0,一二}-0.5・ΔE_{1,二}-0.5・ΔE_{1,一}

は「出塁した場合の得点期待値の差」から「凡打になった場合の得点期待値の差」の差となっています。今回は凡打を簡単のために一死二塁と一死一塁を1:1で仮定していましたが、実際には異なるでしょう。例えば、凡打の場合はどのような場合でも一死一塁にしかならないチームであれば傾きの値は

 

ΔE_{0,一二}-ΔE_{1,一}\\=0.517-(-0.154)\\=0.671
 

と計算されます。凡打での進塁パターンの比率が変わることで0.088傾きの値が減少してしまうことがわかります。これは、会計学での損益分岐点分析でいうと貢献利益率が減少してしまうことと同じです。

また、切片は

 

ΔE_{1,一}-ΔE_{1,一}・P(併殺)+ΔE_{2,無}・P(併殺)-ΔE_{犠打}\\=-0.329-(0.329)・0.083-(-0.183)\\=-0.173

 

となり、式(2')の-0.098より低くなってしまいました。これも会計学での損益分岐点分析で考えると、固定費が増加したとと本質的に同じです。

この場合、損益分岐点

 

\frac{0.173}{0.671}=0.258

 

であり、出塁率が0.258以下であれば犠打をしていたほうがましという結論になります。凡打の状況を1:1の仮定より2倍も高くなってしまいました。

打者以外にも走者の能力によっても犠打の評価が変わってしまうとわかります。

 

最後に犠牲バント損益分岐点分析を犠牲バントのCVP分析として考えてみましょう。犠牲バントの貢献利益図表を以上の解説から作成すると以下の図2のようになります。

 

図2:犠牲バントの貢献利益図表

 

図1と図2をみると売上が出塁率と対応していることがわかります。そこで、出塁率が0.2の場合について考えてみましょう。先ほど計算した犠牲バント損益分岐点出塁率が0.129でした。つまり、出塁率が0.2だと会計学でいうとことの利益が発生します。具体的に式(2')に0.2を代入して計算してみましょう。

 

0.759・0.2-0.098=0.053

 

犠牲バントのCVP分析にて出塁率が0.2のとき、利益は0.053という結果になりました。出塁率が0.2の打者が犠牲バントをしたときの得点期待値とヒッティングしたときの得点期待値の差が0.053であると解釈します。

ただ、会計学では利益は重要な指標ですが、犠牲バントのCVP分析での利益はあまり解釈するのに有効性がありません。とりあえず、これから打席に立つ打者にはバントかヒッティングどちらかを指示すべきかは、損益分岐点さえわかっていれば問題ありません。

 

まとめ

会計学損益分岐点分析にあたる売上を犠牲バント損益分岐点分析では出塁率としていました。計算は単純な一次関数の問題であり、計算構造は同じであったことがわかりました。さらに犠牲バント損益分岐点分析をCVP分析に拡張して考察してみました。

 

セイバーメトリクスはただデータを集めて集計することだけではなく、集めたデータをいかにして分析するかが重要です。

本記事で分析手法を考察することの面白さが伝われば幸いです。

 

 

 

(参考文献)

岡本清(2000)『原価計算』国本書房

鳥越規央(2022)『統計学が見つけた野球の真理 最先端のセイバーメトリクスが明らかにしたもの』講談社

 

*1:あるアウトカウント、 塁状況から攻撃した場合、そのイニングが終了するまでに何点入るかを示したもの

保証料の方程式

今回の記事では保証料について解説していきたいと思います。

 

もし皆さんが住宅ローンでも教育ローンでも事業での融資でも借入を受けるとき、ほとんどの方が保証料というものを支払うことになるでしょう。

 

保証料といってるくらいなのでなんとなく、借金を返せなくなったときに保証してくれてるものと思っている方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?

 

もちろん保証されることに間違いはないのですが、保証される対象は債務者ではなく貸出を行っている債権者の方です。

 

mponline.sbi-moneyplaza.co.jp

 

詳しくはこのサイトを参照して頂きたいのですが、保証料とは債務者(借金をしている人)が債権者(銀行等)に対して返済ができなくなったときに保証している機関(保証会社や保証協会等)が代わりに債権者に一括で返済できる仕組みを構築しておくためにあります。

 

つまり保証料とは債務者ではなく、債権者を守るためにあるのです。なので、債務者がもともとの債権者(金融機関等)に返済できなくなったので債務がなくなるのではなく、債権者が銀行等から保証会社や保証協会に変っただけで債務がなくなるわけではありません。

 

保証会社や保証協会が元々の債務者に代わって金融機関に債務を一括で返済することを代位弁済といいます。

 

対して保証がついてない借入を金融機関ではプロパー融資といいます。

 

住宅ローンや消費性ローンでは各金融機関が利用している保証会社を、事業性の融資では各都道府県での保証協会に保証をしてもらうことになります。

 

債務者からすれば金融機関のために保証料を負担していることになります。金融機関にだけメリットがあって債務者は負担を負わされているだけと感じてしまいます。しかし、まわりまわって債務者に対してもメリットは出てきます。

 

仮に保証料の仕組みがなければ、金融機関は債務者に対して債務不履行で債権がなくなるリスクを負うことになるのでそれに合わせて高金利での貸出を余儀なくされることになります。

 

ここで保証をしてくれる機関があれば、金融機関は代位弁済で返済が全く返済されないというリスクは避けられるでの比較的金利を低く抑えることができます。

 

もちろんこれは

 

プロパーでの金利負担<保証付のでの金利負担

 

が前提となっています。ほとんどの債務者はこのメリットの恩恵を受けていると思います。

 

ただ保証付の融資を受けるにも保証する機関と金融機関の2重の審査を通過する必要があるので、本当にヤバい方は保証料すら払えないことになるでしょう。

 

さて、保証料についての説明は以上にして本題に移りたいと思います。

 

保証料の算出方法は保証会社や保証協会または借入方法(証書貸付か手形貸付など)によって異なります。

 

最近あった案件で以下のような問題に直面しました。

 

住宅ローンの借入金額を決定したい。建物・土地・その他諸費用はわかっているが保証会社の保証料は借入金額によって決定される。しかし、借入金額は保証料も含めた金額にしたいと考えている。

 

ここで保証料は以下のように算出される

 

g×\frac{借入金額(保証料も含む)}{10000}
 

gは借入金額1万円に対する保証料

 

保証料も含めた借入金額を決定したいが、その保証料は借入金額によって決定されます。

 

具体的な例で考えていきましょう。

 

  • 保証料以外の住宅資金(土地・建物・その他諸費用)の金額が18,000,000円
  • 借入金額1万円に対する保証料gは120円
  • 保証料も含めた借入金額をx

 

と置きます。以上のことから方程式を作ると

 

x=18,000,000+120×\frac{x}{10,000}

 

となります。この方程式のxについて解いていきましょう。

 

x=18,000,000+\frac{120}{10,000}x
 
x=18,000,000+\frac{120}{10,000}x
 
(1-\frac{120}{10,000})x=18,000,000
 
x=\frac{18,000,000}{(1-\frac{120}{10,000})}
 
x≒18,218,623

 

となり、保証料は

 

18,218,623-18,000,000=218,623(円)

 

と求めることができます。以上のことを一般化していきましょう。

 

  • 保証料以外の住宅資金(土地・建物・その他諸費用)の金額がE
  • 借入金額1万円に対する保証料はg
  • 保証料も含めた借入金額をx

 

とすると借入金額を求める方程式は

 

 x=\frac{E}{1-\frac{g}{10,000}}

 

で、保証料は

 

 \frac{E}{1-\frac{g}{10,000}}-E

 

とすれば求めることができます。

 

今回は珍しく実務的な出来事で数学が役立ったので記事にしてみました。数学といっても非常に初歩的な方程式ですけど・・・

 

このように直面した問題を数式に置き換えて考えることはまた出てくると思いますので、今後もネタになりそうなことがあれば記事にしていきたいと思います。

<会計>のれんの減損処理について

ネットニュースを見ていると以下のような記事があったので読んでみました。

 

news.yahoo.co.jp

 

見出しだけ見て、100億円も赤字になるなんてコロナの影響で売上高が下がったんだろうなぁと思っていました。しかし、よくよく記事を読んでみると大幅な赤字になった要因は売上高の減少だけではないことがわかります。

 

今回の記事では株式会社サマンサタバサジャパンリミテッド(以下サマンサタバサ)の大幅赤字の要因を簿記の視点から解説していきたいと思います。

 

 

 

 

1.財務諸表を見てみよう

まずは大幅赤字の原因を突き止めるために、直近2期分の損益計算書を見てみましょう。

 

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図表1:サマンサタバサ 損益計算書(2020年2月期、2021年2月期)

 

図表1はサマンサタバサの決算短信を参照して、簡略化したものを筆者が作成したものです。

たしかに記事にある通り2021年2月期は最終100億円の赤字になっていることがわかります。2020年度は20億円の赤字であったのに比べると大幅に赤字が膨らんでいます。それではどれほど売上高が減ったのか見てみると、235億円から225億円と思っていたよりも減少していません。減少率でいうと4.2%程度です。他の同業種の企業では売上高が半減したという話があるのに、4.2%の減少で収まっているのはなにか裏がありそうです。

また、売上高が大きく下がってないのであれば、どうして赤字はそんなに大きくなってしまったのでしょうか。よくよく損益計算書を見てみると「特別損失」が63億円とかなり大きくなっています。それでは特別損失には具体的にどのような勘定科目が計上されているのでしょうか。

 

それぞれの疑問を解くために貸借対照表を見ていきましょう。

 

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図表2:サマンサタバサ 貸借対照表(2020年2月期、2021年2月期) 単位:千円

 

図表2の貸借対照表は『世界一楽しい決算書の読み方』を参考にして著者が作成しました。この図だと直観的に貸借対照表の概要を捉えることができます。

 

ちなみに参考にした『世界一楽しい決算書の読み方』は決算書の読み方について非常にわかりやすくかつ面白く解説しているので、ぜひ読んでみてください。また、著者の大手町のランダムウォーカーさんはTwitterなどのSNSで会計クイズというものを運営されているので興味がある方は調べてみてください。

 

さて、話を戻してサマンサタバサの貸借対照表を分析していきましょう。2020年度から見てみると、かなり危険な状態であることがわかります。

 貸借対照表の右側にある「流動負債」は1年以内に返済しなければならない借入金などが計上されます。この負債を返す財源が左側に載っている「流動資産」です。「固定資産」でも返済できるかもしれませんが、固定資産は現金にするのが1年以上かかると考えられる土地や建物なので、すぐに返済しなければいけない流動負債の財源として換算するのは現実的ではありません。

 

財務分析の指標として「流動比率」というものがあります。これは流動資産を流動負債で除したもので、経営の安全性を図るために使われます。100%を超えていればとりあえず、1年以内の返済については問題ないとわかります。200%を超えれば安全と言われます。しかし、2020年のサマンサタバサの流動比率は約79%。単純に考えて、借入金の返済ができず1年も経営できないと判断されます。

 

 

2.サマンサタバサが行った対策

もちろん、こんな状況で何も手を打たないわけではありません。実は2020年の7月に株式会社フィットハウス(以下フィットハウス)を吸収合併しました。さらにフィットハウスの親会社である株式会社コナカ(以下コナカ)からの支援を受けるようになりました。このことにより、図表2の2021年度の貸借対照表は総資産が大幅に増加し、流動比率も174%となり財務体質が改善しました。

 

maonline.jp

 

ここで一つ目の疑問である「どうして売上高がそこまで減少しなかったか」がわかります。ズバリ答えは2021年度の売上高にはサマンサタバサだけではなくフィットハウスの売上高も含まれていたからです。ただ、裏を返せば両者合わせても前期のサマンサタバサ単体での売上高と同程度になっているということです。

 

コナカの直近の売上高は148億円ありました。2020年度のサマンサタバサの売上高が235億円だったので、単純に考えれば383億円程度の売上高が期待できたと考えられます。そう考えると2021年2月期の売上高はかなり深刻なものだと捉えることができます。

 

 

3.減損会計について

続いての疑問であった「特別損失」が63億円が何なのか調べていきましょう。

これは実際の損益計算書をみればわかるのですが、2021年2月期の特別損失の内訳に「減損損失」が63億円計上されています。

 

減損とは、収益性の低下により投資額を回収する見込みが立たなくなった固定資産の帳簿価格を一定の条件のもとで回収可能性を反映させるように減額する会計処理のことです。

 

たとえば、帳簿価格が100,000円の機械があるとします。この機械の使用価値、つまり将来的稼ぐ能力が70,000円だと算定されたとします。このとき以下のような仕訳が行われます。

 

借方 貸方
減損損失 30,000 機械 30,000

 

70,000円の使用価値しかないのに100,000円で計上されていていたので、

100,000円-70,000円=30,000円を機械から直接減額します。その相手科目になるのが減損損失というわけです。

 

さて、それではサマンサタバサはどのような固定資産の減損を行ったのでしょうか?

サマンサタバサがフィットハウスと吸収合併して直近に作成された決算短信である2021年10月に発表された「2021年2月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」を参照してみましょう。ここに減損処理について書かれていました。一部抜粋します。

 

「6.発生したのれんの金額、発生原因、償却方法及び償却期間
被取得企業である株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドの取得原価と時価純資産との差額によりのれんが5,845,943千円発生しましたが、将来キャッシュ・フロー予測に基づく回収可能価額を検討した結果、当第2四半期連結累計期間において全額を減損損失として計上しております。 」

 

どうやら「のれん」という固定資産が58億円ほど減損処理されたそうです。2021年2月期に計上されていた減損損失は63億円だったのでほとんどがこの「のれん」の減損だとわかります。

続いて、この「のれん」について解説していきます。

 

4.「のれん」について

 「のれん」は吸収合併に際して、受け入れた純資産よりも増加した資本金等の方が多い場合に発生した差額のことをいいます。

 

たとえば、P社が諸資産100,000円、諸負債60,000円であるS社を株式10株(時価@5,000円)を発行して吸収合併した際のP社側の仕訳をしてみましょう。

 

資産が増加したので、借方に「諸資産」100,000円。また、負債も増加したので貸方に「諸負債」60,000円計上します。さらに、株式10株×5,000円=50,000円の資本金(純資産)が貸方に計上されます。

S社の純資産は100,000円ー60,000円=40,000円です。しかし、P社は50,000円で買収しました。つまり、本来40,000円の価値があるとされているものを50,000円かけて買ったのです。P社からすればこの差額50,000円-40,000円=10,000円以上の価値があると判断したと解釈できます。この差額10,000円が「のれん」という資産です。のれんはブランド力や技術力、人的資源や地理的条件、顧客ネットワークなど、見えない資産されています。実態はありませんが価値のあるれっきとした資産として会計上処理されます。

以上のことを踏まえて仕訳すると以下のようになります。

 

 借方   貸方 
 諸資産     100,000  諸負債       60,000
 のれん       10,000  資本金       50,000

 

先ほども書きましたがサマンサタバサもフィットハウスを吸収合併した際、のれんが58億円発生しました。つまり、サマンサタバサはフィットハウスに対して時価総額にプラスして58億円の価値があると判断したことになります。

 

さて、この「のれん」もちろん資産なので減価償却も減損の行われることになります。2021年2月期 第2四半期決算短信によると、なんとサマンサタバサは取得したのれんを取得時に全額減損したと説明されています。

 

自らが価値があると判断しても、会計上公正妥当であると判断されなければ、財務諸表にその金額を計上できません。仮にのれんが58億円あったとしても将来回収できると見込まれるキャッシュフローがなければそののれんの価値は0円です。そして、のれんの減損として58億円が「減損損失」として損益計算書の特別損失に計上されるのです。ちなみに仕訳は以下のように行われます。

 

 借方   貸方 
 減損損失   58億   のれん   58億 

 

これが大幅赤字の真の原因です。ただ、のれんの減損や減価償却は企業の判断によって恣意的に行われる部分もあるそうです。(私自身は実務的なことに携わった経験がないので断言しません)

仮にのれんを減価償却して処理する方法を採用すれば、20年間定額で減価償却費を計上することになります。今回の事例でいえば今後20年間強制的に29億円が費用として引かれることになります。

 

それなら一括で減損損失をした方が今後のためにもなりますしね。コロナ禍のタイミングでの大幅赤字は同業界の会社の業績悪化とあやむやにする意図があったかはわかりませんが。

 

5.まとめ

今回はサマンサタバサのニュースをもとに減損やのれんについて会計的な視点から解説してきました。

 

サマンサタバサは100億円の赤字を計上しましたが、その原因は合併買収によるのれんの減損でした。前期と比較して売上高はあまり減少していませんが、合併を勘案すると深刻な状況です。コロナ禍の収束やコナカの協力で今後の回復を見込んでいるとわかりました。

 

最近のニュースを見ていると「減損」や「のれん」という会計用語が普通に使われています。その背景には多くの企業で合併買収が行われいることがあります。

日商簿記2級でも連結会計が割と最近試験範囲に含まれるようになったと話題になっていました。私が受験したときにも連結会計の問題が出題されていました。 

時代によって金融知識のスタンダードが変わっていきます。現在では連結会計の知識はスタンダードになってしまったのかもしれません。なかなか勉強するのが大変ですが、このブログがその一助になれば幸いです。

 

 

参考文献

 

所有株がTOB(株式公開買付)されるときの対処方法

 

3月5日の大引け後に株式会社イグニス(以下「イグニス」といいます)がTOBされると発表されました。

 

maonline.jp

 

私自身、イグニスの株を所有していました。しかし、株を初めてまだ1年程度でもちろん所有していた株がTOBされるなんて初めてです。そもそもTOBとはなにかよくわかっていませんでした・・・

 

この記事ではTOBの概要と所有していた株がTOBされた際の対処方法について、実際にTOBされるイグニス株で具体的に解説していきたいと思います。

 

1.TOBの概要

はじめにTOBについて説明していきます。TOBは"Take over bit"の略で日本語では株式公開買付といわれていて、公開企業の支配権や経営権を取得したり強化する目的で、市場外で対象の株式を短期間に大量に買い付けることです。

 

上場企業の経営陣は、株主からの要求を受けながら経営方針を決定します。しかし、企業が業績悪化などで事業再編を速やかにしたいのに、大勢の株主がいると利害の調整が進まずに難航することがあります。

イグニスは「マッチング事業」や「エンターテック事業」、「ゲーム事業」と流れが早く、競争の激しい事業を展開していました。そんななか事業の再編成にスピードが求められるのは言うまでもありません。しかし、株式会社という性質上、多くの株主の意見を尊重しなければいけません。そして、なかなか機動的で柔軟な事業展開ができていなかったと思います。

 

そのような状況を早急に解決するために、企業の経営陣がTOBを行い既存株主から経営権を取得するという手段が実行されます。すると株主との利害調整がなくなり、機動的かつ柔軟に経営を行っていくことができます。このことを特にMBO"Management Buyout"といわれ「経営陣買収」と訳されます。

つまり、経営陣が株主から経営権を取得するために自社の株式を買うとき、市場外で大量に買付を行うのです。MBOが目的でTOBという手段が行われるのです。

 

イグニスもこのケースになります。具体的にみていきましょう。

まず、イグニスを買い付ける「公開買付者」は株式会社i3(以下「i3」といいます)です。i3は本件の公開買付を通してイグニス株を所有することを目的として設立された法人です。株主と議決権の割合は以下のようになっています。

 

株主

議決権の割合

銭錕(イグニス代表取締役社長)

25%

鈴木貴明(イグニス代表取締役CTO)

25%

ベンキャピタル(米大手投資ファンド

50%

 参照:株式会社i3による公開買付説明書(https://www.nomura.co.jp/retail/stock/tob/pdf/3689.pdf

 

見てわかるように議決権の半数はイグニスの経営陣である銭錕氏と鈴木貴明氏が所有しています。

今後、このi3がイグニスが発行している株式を全て強制的に買い付ける予定です。つまり、イグニスの経営陣が実質的に半数の議決権を取得し、イグニスの経営を支配することになるのです。

 

2.TOBが実施されたときの株価の動き

続いて、TOBされた株価について解説していきます。実はTOBされる銘柄の株価は急上昇します。その仕組みを説明していきます。

 

TOBをする際、買付者は投資家から全ての株式を買収必要があります。もしも、市場のなかで大量の株式を買おうとする動きがわかればどうなるか考えてみます。勘のいい投資家なら買収者の意図を汲み取り、株価が最大限まで上昇するまで意地でも所有してしまうでしょう。そのようなことになると買収者も困るので、市場の外で大勢の投資家をある程度の買付価格で説得して取得します。

こうなるとこの話を知らない個人投資家たちにとっては

「市場で手放すチャンスもないまま、投資していた上場企業がいつのまにか経営方針の全く異なる買収者に買い占められていた」

とういことになってしまいます。こんなことではその個人投資家は保護されません。そこで、公開買付制度というものが決められました。これは、市場を通さずに大規模な買収をする、というシナリオを主に念頭に置いて買収者に対し、そのような買収をする場合には世間に情報公開するようにします。同時にその株式を保有している個人投資家たちに売却するチャンスを与えます。また、その株主の希望があれば買収者はその株主からも株式を買わなければならないように定められています。

 

公開買付が行われる際、公開買付者は買付価格を提示しなければいけません。買付価格は時価に何割かプレミアムをつけられます。先ほどもいった通り買付は市場外で行われ確実にプレミアムがついた価格で売りつけることができます。公開買付が発表されると市場での時価とプレミアムがついた買付価格との差額を狙う投資家たちが市場で買い注文を起こします。結果的に市場価格も買付価格と同程度の価格に急上昇するのです。

 

実際にTOBが発表されたあとのイグニス株がどのように動いていったのか見てみましょう。

 

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図1 イグニスの株価チャート


図1は2021年1月4日から3月17日現在までのイグニスの株価チャートです。

TOBが発表される以前の3月5日までは1400円~2500円の間で株価が上下していました。しかし、TOBが発表されて初めての取引である8日に株価が急騰しました。ストップ高で8日は+400円、9日は+500円となり10日以降は2992円で株価が落ち着きました。

イグニス株は3000円で買付られると発表されていました。結局、市場で売ったとしても一株8円程度下がるだけになって返ってくるとわかります。

 

なお、公開買付にしたがってTOBに申し込むにはTOBの買付代理人となっている証券会社に口座を作って株式を移管しないといけません。もちろん、もともと取引していた証券口座が買付代理人ならそのままTOBに申込みするだけなので、それほど手間はかかりません。しかし、私も含めて買付代理人の証券口座で取引していれば移管の手続きが必要です。

また、売却なら比較的すぐに資金が返ってくるのですが、買付に応じればTOBの決済日まで待たなければいけません。イグニスの場合、決済日は4月20日となっており、もし3月8日早速TOBに応募したとしても一か月以上資金が入ってくるのを待つことになります。
 所有していた株式数が少なく、多少の株価が少なくても妥協できる方なら市場で売却するのが得策かもしれません。

 

私もイグニス株は100株しか持っておらず、もともと楽天証券で取引していて買付代理人である野村證券の口座もなかったので市場で売却しようと思っていました。しかし、市場で株価を売却するという手続きはやったことがあるのですが、株式移管や公開買付の応募はやったことがありません。ちょうどいい機会なので、今回はあえて市場での売却はせず、公開買付の応募をしていきたいと思います。

 

3.公開買付の応募手続き

 それでは、公開買付の応募をやってきましょう。ステップとしては以下の3つです。

 

  1. 買付代理人となる証券会社の口座開設
  2. 現在所有している証券口座から買付代理人の証券口座への株式移管
  3. 公開買付の応募

 

 

1.買付代理人となる証券会社の口座開設

今回、イグニスのTOBで買付代理人となるのは野村證券です。早速、野村證券の口座開設のサイトにいくとネット・郵送・電話での対応となっていました。ここではネットを選択し、さらにネットでの口座開設は「かんたん口座開設」と「スピード口座開設」の2種類がありました。「かんたん口座開設」なら最短で5日、PCやスマホマイナンバーカードか本人確認書類+通知書が必要で、「スピード口座開設」はマイナンバーカードとICカードリーダライタ、PCが必要とのことでした。

 

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図2 野村證券の口座開設画面

 

公開買付の期間は4月19日までと時間にそこまで余裕がなく、マイナンバーカードも持っていたので「スピード口座開設」をすることにしました。

 

余談ですが、マイナンバーカードは今後このような手続きで必要になったり、保険証のかわかりになったりと割と便利になっていくので作ってない方は作っておくことをお勧めします。今なら、マイナポイントとかもあるので。

 

さて、話を戻して手続きに進もうと思ったのですが、ICカードリーダライダを持っていませんでした。町の家電量販店に行って、2700円で購入しました。思ったよりも高かったのですが、確定申告やその他いろいろ使っていけるかもしれないので、買っておいて損はないと思います。

必要なものはそろったので、口座開設していきましょう。

 

 サイトから「スピード口座開設」を選択していき、メールなどを登録します。進んでいくと以下の図3が現れます。

 

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図3 口座開設に伴うマイナンバーカードの提供画面

 

ここではマイナンバーカードの情報を提供するための手続きを行います。書いている通りに進めて行けばそこまで問題ないでしょう。あえて注意するなら、Javaのアプリケーションをダウンロードするので、お使いの環境に合ったものを調べておいてください。

 

あとは指示にしたがってマイナンバーカードをICカードリーダライダで読み込ましたり、情報を入力していくと申込みが完了します。私の場合、午前11時に申込みして午後2時ごろに口座開設が完了しました。さすがに「スピード口座開設」というだけ早かったです。


2.現在所有している証券口座から買付代理人の証券口座への株式移管

次に株式移管をしていきましょう。

私の場合、イグニス株を楽天証券の口座で持っているので、ここから先程開設した野村證券の口座に移管します。

 

PCかスマホどちらでもできますが、今回はPCの画面から説明していきます。

まずは楽天証券のマイページに行きます。右上にある「マイメニュー」を押して、「移管・買取請求」を選択してください。

 

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図4 楽天証券マイページ

 

すると図5のような画面になります。

 

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図5 楽天証券 株式移管画面

 

ここで、

日本株式」→「楽天証券から他社へ」

の「申込」を選びます。

 

次の画面で、移管先証券会社の情報を入力していきます。

順番に入れていきましょう。

 

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図6 楽天証券株式移管申込み画面

野村證券の 口座情報は野村證券の証券口座ログイン画面から右上の方にある「口座情報/手続き」→「お客様情報照会/変更」から確認できます。

後は間違えないように手続きを進めていけば申込み完了です。

 

現在、私もここまでの手続きが完了しており、移管されるのを待っている状態です。

手続きできているかは楽天証券の図5の画面の左上の方にある「手続中照会・取消」へ移り、期間や申込日を選ぶ項目があるので、みたい期間を設定すれば確認することができます。

 

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図7 楽天証券株式移管申込確認画面

 

なお、ここで状況が「取次不可」になっていれば移管できていないので再度申込みする必要があります。

 

また、株式移管受付停止期間があることに注意してください。月によって変わりますが、月の下旬は受付できない日が多くなっています。以下のページで確認しておきましょう。

 

member.rakuten-sec.co.jp

 


3.公開買付の応募

 野村證券の証券口座へ移管が完了すれば、公開買付の申込みに進みます。ここは私自身まだできてないのですが、わかる範囲で説明していきます。実際の手続きが進めば、この記事も更新していきます。

 

まず、野村證券の証券口座ログインページの

「取引」→「TOB(公開買付)」

と進みます。すると現在TOBを受付ている銘柄がでてきます。ここからイグニスを選んで申込みを進めていくようです。

 

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図8 野村證券TOB申込受付画面

 

先ほども言いましたが公開買付の期間は4月19日までです。締め切りまでに申込みをしなくても強制的にイグニス株が買付される手続きが進められます。このことをスクイーズアウトといいます。しかし、これは資金化できるのがかなり後になってしまいます。市場での売却か公開買付の応募をしておいた方が得策だと思います。

 

まとめ

TOBの概要やTOBされた株式の処理方法について説明してきました。この記事に書かれていることが理解できれば、今後所有している株がTOBされても慌てることはないでしょう。

私はTOBの知識もその後の手続きなど、なにもかも知りませんでした。ただ、今の時代は検索すれば、ほとんどのことがわかります。あとは実際に試行錯誤していきながらやっていけば何とかなります。

 

最近、実感として株式投資に関心がある方が増えてきたと思います。ただ、あくまでも関心があるだけで証券口座すら開設していない人がほとんどです。とりあえず、関心があるならスマホで検索して何をすればいいのかくらい調べてみましょう。人に聞いてアドバイスをもらうくらいならさっさとググってしまいましょう。

 

また、投資すると言いながら、資金がないからとかいい銘柄が見つからないと言って全然行動に移さない方がいます。調べればわかるように少額でもできる投資はあります。また、銘柄探しはある程度にしてとりあえず、気になる銘柄を買ってみたらいいと思います。実際にやり始めればわかるとおもいますが、買ってしまった以上、その銘柄について自発的に情報を仕入れるようになります。買う前より、むしろその銘柄についてより調べるようになりました。

 

とりあえずやってから考えるというスタンスでいることが投資に関心ある方や初心者には必要だと私は思います。仮に損失を出してもそこに至るまでの経験や学んだことは、はじめの少額くらいなら勉強代と思えば安いものです。

 

皆さんもぜひ、とりあえずやってから考えましょう。

 

 

 

参考文献

  • 池田成史 『法律から見えてくる「金融」の未来』 株式会社クロスメディア・パブリッシング 2019

 

ロケット方程式

 

 

2021年1月26日、衝撃的なニュースが飛び込んできました。

 

rocket.tenga.co.jp

 

 

なんと株式会社TENGAがロケット打ち上げに挑戦するのです!

 

定期的にTENGAのホームページをチェックをしているので、1月26日以前に重大発表を告知していたのは知っていました。しかし、今回も新商品か黄金TENGA*1ダンベTENGA*2みたいなネタ商品?の発表かと思っていましたが、今回の発表はロケットの打上角度のごとく予想の斜め上をいかれました。

 

株式会社TENGAのような(少なくとも僕にとっては)身近な企業が、高度な技術や多額の費用が必要だったロケット開発に挑戦することは非常に素晴らしいと思っています。今まで限定された人しかできなかったことに民間企業が挑戦でき、宇宙開発への可能性を広げていることを多くの人に知ってもらえるからです。

発表の会見をみていてみるとわかるのですが、プロジェクトのメンバーである稲川氏のインターステラテクノロジズ株式会社はまさに、その信念を大切にしているとわかります。今回の会見で稲川氏は「みんなのロケット」を価値観を掲げていて、今回のプロジェクトもその延長線上にあります。

 

私は宇宙が大好きです。なのでこのプロジェクトを人一倍応援しています。

宇宙には小さいころから憧れがあり、今でもISS*3が上空を通過するのを見に行ったり、宇宙に関する映画や漫画をよくみています。初めてのデートもプラネタリウムに行きました。

私のブログは数学をテーマにしているので、今回の記事ではロケット打上に関連して、ロケット方程式ともいわれている「ツィオルコフスキーの公式」を簡単に解説していきます。この公式は微分方程式が使われています。微分方程式は経済学や金融工学などでも使われています。今後、微分方程式を使った金融モデルも解説していきたいので今回の記事はそのウォーミングアップとして読んでいただければと思います。

 

ちなみにTENGAも大好きです。

TENGAについては高校生のころから社会人になった現在でも愛用しています。最近は図1のように穴の開いたクッションにTENGAを挟み込み、固定した状態で自ら腰を振って行為を嗜んでいます。この方法は本番での練習にもなります。また、体力や準備に手間がかかるので*4労力がかかる分、自慰行為に対しても覚悟を持って取り組むことができます。

 

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図1 使用後処理するのが面倒で放置されたクッションに挟まれたTENGA

 

この使用方法はオナニストには有名で、Amazonでこのクッションを調べると明らかにこの使用方法を示唆させる関連商品が出てきます。

 

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図2 ヒップスベーグルクッションの関連商品

 

本来のクッションを座るために使うという常識から、自慰行為へ開放させたはじめてのオナニストは、TENGAが大切にしている 

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というスローガンを体現したと言っても過言ではありません。

是非皆さんも試してみてはいかがでしょうか。

 

話が盛大にそれてしまいましたが、ツォルコフスキーの公式について解説していきます。

 

ツォルコフスキーの方程式

ツォルコフスキーの方程式ではロケットを発射してから燃料をすべて噴射したとき、最終的にこのロケットはどれほどの速度に達するのかがわかります。

 

具体的に考えていきましょう。

燃料が燃焼してロケットが加速されればされるほど、ロケットの質量mが小さくなります。さらに、燃料の噴射速度が大きいほど加速が有効なこともわかります。結局、ロケットの最終速度は燃料がなくなる瞬間に達成されます。

 

燃料ガスを噴射し質量を減少させながら飛行する現実的なロケットの運動量について考えます。時刻tでのロケットの質量と速度をそれぞれmvとすると、次の瞬間(t+Δt)の質量を速度はどうなるでしょうか?

ある短い時間Δt内にロケットは燃料を質量Δmだけ燃やして後方に速度uで噴射すると仮定します。すると、時刻t+Δtでのロケット本体の質量はm-Δmとなります。

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図3 ロケットの運動の様子

 同時に燃やした質量Δmの燃料をロケット本体から後方に噴射した反動でロケットの速度がv+Δvまで加速されるとします。すると、時刻t+Δtでのロケット本体の運動量は質量m-Δmと速度v+Δvを掛けて、次のようになります。

 

(m-Δm)(v+Δv)

 

運動量保存則*5を利用するために、後ろに噴射された燃料(質量Δm)の運動量も考慮します。

燃料は高温ガスとなり、速度-uでロケットの推進方向と逆に噴射されます。このとき、噴射ガスの運動量は-uΔmです。したがって、時刻t+Δtでのロケットと噴射ガスの運動量を合計すると全体の運動量が出ます。そして、それは時刻tでのロケット運動量mvに等しいので

 

(m-Δm)(v+Δv)-uΔm=mv

 

mv+mΔv-vΔm-ΔmΔv-uΔm=mv

 

微小変化量を2個掛け合わせた2次の項ΔmΔvは他の項より小さいので無視して

 

mΔv-vΔm-uΔm=0\tag{1}

 

さらにまとめると

 

mΔv-(v+u)Δm=0

 

となります。ここで新たにv+u=-Vと置けば結局式(1)は

 

mΔv=-VΔm\tag2

 

となります。このVは速度-uで離れていく燃料を速度vで飛ぶロケット本体から見た速度となります。つまり、ロケットから見た燃料の相対速度のことです。

 

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図4 ロケットの相対速度V

 式(2)の両辺をΔvで割って Δv→0の極限をとると、差分の方程式が微分方程式になります。

 

mΔv=-VΔm

 

\frac{mΔv}{Δv}=\frac{-VΔm}{Δv}

 

m=-\frac{VΔm}{Δv}

 

-\frac{1}{V}m=\frac{Δm}{Δv}

 

\frac{dm}{dv}=-\frac{1}{V}m\tag{3}

 

式(3)の一般解を導出していきます。

 

\frac{1}{m}\frac{dm}{d{v}}=-\frac{1}{V}

 

\frac{1}{m}dm=-\frac{1}{V}d{v}

 

∫\frac{d{m}}{m}=-\frac{1}{V}∫d{v}

 

\log{|m|+C_1}=-\frac{1}{V}v+C_2

 

m=e^{-\frac{1}{V}v+C_2-C_1}

 

m=Ce^{-\frac{1}{V}v}\tag{4}

 

この式(4)にv=0,m=Mを代入すればM=Ce^0=Cが得られます。したがって、求めるべき特殊解は

 

m=Me^{-\frac{1}{V}v}\tag{5}

 

となります。式(5)はM=e^{\log{M}}と表せるので、次のように書きます。

 

m=e^{-\frac{1}{V}v+\log{M}}\tag{5'}

 

さらに式(5')をvについての関数に書き直していきます。

 

\log{m}=\log{e^{-\frac{1}{V}v+\log{M}}}

 

\log{m}=-\frac{1}{V}v+\log{M}

 

\frac{1}{V}v=\log{M}-\log{m}

 

v=V(\log{M}-\log{m})

 

v=V\log({\frac{M}{m}})\tag{6}

 

 式(6)はなにを意味しているのでしょうか。燃料が燃焼してロケットが加速されればされるほど、ロケットの質量mが小さくなります。さらに燃料の発射速度が大きいほど加速が有効となります。

結局、ロケットの残存質量はm_0なので式(6)でm_0=mとして

 

v=V\log({\frac{M}{m_0}})\tag{7}

 

 となります。この式(7)がツォルコフスキーの公式です。

質量比{\frac{M}{m_0}}はロケットの{\frac{初期質量}{最終質量}}を表します。

一般的に噴射速度Vは3㎞/s程度と言われています。また人工衛星を軌道に乗せるために必要な速度は約7.9㎞/sと知られています。

ここで、7.9㎞/sの速度を得るにはどれだけの燃料が必要か求めてみましょう。

式(7)から

 

7.9=3\log({\frac{M}{m_0}})

 

2.633=\log({\frac{M}{m_0}})

 

e^{2.633}=\frac{M}{m_0}

 

{m_0}e^{2.633}={M}

 

{m_0}=\frac{1}{e^{2.633}}M

 

{m_0}=0.072M

 

 つまり、ロケットのうち燃料以外に使える質量は全体の7.2%程度に過ぎないことがわかります。

 

まさかの最後の答えが「0.072」で「オナニー」になってしまいました。決してわざとではありません。

やはり、ロケットとTENGAには何か縁があるのかもしれません。

 

プロジェクトの成功、願っています。

 

財務・株式指標の情報をまとめてみた

 

 目次

 

はじめに

最近、美容に気を使うようになり定期的に洗顔料や化粧水などを購入するようになりました。しかし、これらの製品は少々高いと思っていました。そんなことに悩んでいたころ、たまたま株主優待だけで生計を立てている方をテレビで見かけました。これもたまたま、最近つみたてNISAをはじめいたので証券口座は開設できていました。善は急げということで早速、美容品の株主優待を出している銘柄を探しました。

 

一番良さそうだったのが、男性用美容品のギャツビーなどで有名なマンダムでした。権利確定日が近づいていたので、あまり深く考えずにすぐに買い注文をしました。時期がたまたま良く比較的安値で取得でき、少しずつではありますが現在進行形で株価が上昇しています。

 

ただ、やはり持ったからには長期的に所有しておきたいと思っていますし、財務情報や株式指標などを把握しておこうと思いました。普通は株を買う前に行うことですが・・・

 

調べてみると、財務内容はもちろん、PERやPBR、配当利回りなど多くの情報がありすぎて、どの指標が重要でどう評価すればいいのか全然わかりませんでした。もちろん、一つ一つ指標の意味を勉強していけばいいのですが、正直面倒くさいと思いました。

 

マンダムの株価がこれから上がっていくのか、少なくとも上がらなくても株主優待の分、得できるのかだけでも分かればいいのです。

 

そこでこの記事では多くの財務・株式指標の変数をまとめて、総合した新しい特徴を持った指標をつくり、できるだけ少ない変数で銘柄を評価できるように分析をしていきたいと思います。

 

分析方法

今回は主成分分析を行っていきます。この分析を行うことによって、多数の変数を少数の総合指標に集約することができます。

統計学的には変数間の相関を排除し、できるだけ少ない情報の損失で、多くの変数により記述された量的データを少数個の無相関な合成変数に縮約します。

分析手法の詳細については専門書を参照してください。最低限知っておくべき用語や結果の解釈については実際の分析結果とともに解説していきたいと思います。

 

それでは具体的なデータや分析方法について説明していきます。

結論として知りたいのはマンダムの総合的な評価です。同業界と相対的に比較するために分析する対象は

東証に上場している化学業界で財務情報や株式情報が取得できる銘柄」

にします。銘柄の情報は楽天証券のMarket Speedで取得しました。現在2021年2月時点のデータで上記の条件満たしていたのは209銘柄でした。

 

変数と使用する財務・株式指標は以下の10個です。

  1. 売上
  2. 当期利益
  3. 売上高利益率
  4. 売上高成長率
  5. 利益成長率
  6. 一株当たり利益
  7. 株価収益率
  8. 株価純資産倍率
  9. 配当性向
  10. 配当利回り

いずれも2021年2月時点で取得できた最新のデータを使用しています。

分析はで統計ソフトRのprcomp関数を使いました。

 

結果

Rにて出力した結果についてみていきます。

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図表1 標準偏差、主成分負荷量

図表1ではprcomp関数の詳細をsummary関数で出力された結果です。

それぞれの変数は先ほど紹介した指標を以下のように省略して記しています。

  1. sales・・・売上
  2. profit・・・当期利益
  3. P.S・・・売上高利益率
  4. SG・・・売上高成長率
  5. PG・・・利益成長率
  6. EPS・・・一株当たり利益
  7. PER・・・株価収益率
  8. PBR・・・株価純資産倍率
  9. DPR・・・配当性向
  10. DY・・・配当利回り

PC1~10は第1~10主成分負荷量です。主成分負荷量は統計学的には固有ベクトルのことを言い、それぞれの主成分ともとの変数との相関係数になっています。

具体的にみるためにPC1の第一主成分に注目してください。ここでは"sales"の0.6053や"profit"の0.6482が主成分負荷量の絶対値として大きくなっています。つまり、第一主成分は売上や利益が大きければ、第一主成分の得点が低くなるということがわかります。したがって、第一主成分は銘柄の規模を示す指標と解釈できます。なお、それぞれの主成分負荷量は符号を逆転しても同じ意味になります。「大きくなれば低くなる」というのはわかりにくいので「大きくなれば大きくなる」と解釈できるように正負逆にして主成分負荷量を出力し直します。その結果が以下の図表2です。

 

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図表2 固有値平方根、寄与率、累積寄与率、第1-6主成分負荷量(固有ベクトル

これだと売上や利益が大きければ、第一主成分(規模)が大きくなるとわかりやすくなりました。

さらにここで注目して頂きたいのが、図表2の上部にある"Proportion of Variance"と"Cumulative Proportion"です。

"Proportion of Variance"は寄与率と呼ばれるもので、主成分負荷量のベクトルに対応する固有値です。例えば、PC1の第一主成分の寄与率は0.184となっています。これは全体の情報のうち第一主成分だけで18.4%の情報が説明できることを意味しています。

売上、利益、・・・の10個の指標で合計100%の情報があるなかで第一主成分の数値だけ分かれば、とりあえず全体のうち18.4%の情報がわかるということです。第二~十主成分についても同じです。ただ、0.184→0.157→0.117→・・・というように主成分が増えるごとに情報量が逓減していきます。

もちろん、指標を減らすことが目的なので、10個の指標があるのに10個の主成分で説明してもあまりうれしくありません。そこで注目して欲しいのが"Cumulative Proportion"です。これは累積寄与率と呼ばれるもので、第一~十主成分まで順番に寄与率を足していった値です。この値に注目すれば何個の主成分でどれだけの情報が説明されるのかがわかります。このことを視覚的にわかるのが図表3のスクリープロットです。これは寄与率による情報量の累積度合いを示しています。

今回の結果で言えば、PC6の第六主成分の累積寄与率が0.7635となっており、6個の主成分ですでに76.5%の情報が説明できていることがわかります。どれだけの累積寄与率で主成分の数を減らすかは分析者の判断に依ります。一般的には70~80%程度説明できたところで変数を選んでいる例をよくみます。ここでも第六主成分の時点で70%を超えているので、ここまでの主成分で分析を進めていきたいと思います。

 

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図表3 スクリープロット

 

最後にそれぞれの指標の主成分によるデータの位置づけがわかる図表4を説明します。視覚的にわかりやすくするために、第一、第二主成分だけで説明します。プロットされている数字は各銘柄の番号がプロットされています。横軸は第一主成分の因子負荷量、縦軸が第二主成分の因子負荷量となっています。先ほども言った通り符号が逆転していますが、sales(売上)やprofit(当期利益)のベクトルが右に大きく伸びていることがわかります。つまり、「22」「130」「102」の銘柄の第一主成分の得点が高いをわかります。

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図表4 主成分得点のプロット

考察

 結果を考察していきましょう。

まず、分析の目的であった

「多くの財務・株式指標の変数をまとめて、総合した新しい特徴を持った指標をつくり、できるだけ少ない変数で銘柄を評価できるように分析をしていきたい」

についてみていきます。

主成分分析を行ったことにより10個の指標を6個の主成分で76%説明できるようになりました。正直、あまりうれしい結果とは言えません。せめて半分の5個以下に絞り、累積寄与率についても80%以上は欲しかったところです。累積寄与率が主成分を増やしてもなかなか大きくならないということは、扱っていた指標それぞれに個別の意味があったと考えることができます。

 

それぞれの主成分についての意味づけについても考察してみます。第一主成分は先ほどもいった通り、会社の規模を表していそうです。第二主成分については株価純資産倍率・売上高成長率・株価収益率の値が大きくなれば得点が高いなり、逆に配当利回りが高くなれば得点が下がる傾向が見て取れます。売上高成長率は売上を伸ばして成長しているとわかりますが、その他の指標は何をあらわしているのかもみていきましょう。

 

  • 株価純資産倍率(PBR)

まずは株価純資産倍率をみていきましょう。算出方法は以下の通りです。

 

株価純資産倍率(倍)=\frac{株価}{一株当たりの純資産}

 

この指標によって株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているか、すなわち1株当たりの純資産の何倍の値段がつけられているかをみる指標です。この数値が低い方が企業の資産価値と比べて、株価が低くなっているので株を買う際には割安になっていると判断できます。ちなみに今回取得したデータでは平均1.98倍になりました。

 

  • 株価収益率(PER)

続いて、株価収益率についてみていきます。計算は以下の通りです。

 

株価収益率(倍)=\frac{株価}{一株当たりの純利益}

 

これは株価が1株当たり純利益の何倍で買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかをみることができます。現在の株価が企業の利益水準に対して割高か割安かを判断する目安になります。数値としては低い方が割安です。同業界内で相対的に比較していく必要があります。今回取得したデータでは平均27倍でした。*1

 

配当利回りは購入した株価に対し、1年間でどれだけの配当を受け取ることができたかを示す数値です。

 

配当利回り=\frac{一株当たりの年間配当額}{一株購入価格}

 

配当金額が同じで購入株価が高いと配当利回りは下がり、購入株価が低いと配当利回りは上がります。また、購入株価が同じで配当金額が大きいと配当利回りは上がり、配当金額が小さいと下がります。取得したデータの平均は1.98%でした。

企業にとって配当政策は異なります。配当が無いからといって評価を下げてはいけません。例えば、成長企業であれば利益は配当に回すのではなく、次の事業での資金として確保するでしょう。また、逆に安定した企業で事業への投資機会が少なければ、配当を高くし着実な資金確保を維持するために株主への配当を還元する傾向があります。

 

以上の指標の特徴を考慮したうえで第二主成分を見てみると

  1. 売上が年々上がっている
  2. 純資産や利益に対して株価が割高になっている
  3. 配当金額が少ない(事業に再投資している)

これらの特徴から企業の成長性を表していると考えられそうです。

 

他の主成分についても検討していきたいのですが、長くなるので割愛します。

 

最後にマンダムの評価をしていきます。図表5はマンダムの財務・株式指標、第一~六主成分の負荷量、マンダムの主成分得点を計算したものになります。

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図表5 マンダムの主成分得点

今回は取得してきた財務・株式指標は原データを標準化しています。したがって、主成分得点の平均は「0」で、標準偏差は「1」となっています。

主成分得点をみていくとすべての得点で可もなく不可もなくという結果です。寄与率が高く、絶対値の大きな得点に注目すると第二主成分が低いことがわかります。つまり、先ほど第二主成分の考察から言えば、マンダムに成長性があまりないと考えられそうです。

 

まとめ

 今回は主成分分析で財務・株式指標の集約と保有している銘柄の評価を試みてきました。結果としては指標の集約はあまりうまくできず、それぞれの指標に意味があるとわかりました。はじめはそれぞれの指標を調べるのが面倒くさいから総合的な指標を作ろうとしていたのに、結局分析を解釈するためにそれぞれの指標について調べいたので詳しくなってしまい、なんとも皮肉なことになりました。

保有している銘柄のマンダムを、新たに作った指標(主成分)で評価しました。分析から少なくとも成長性はなさそうということだけはわかりました。ただ、逆に安定はしているとみることもできます。ということで株主優待分は得できそうなのでマンダムの株はこれからも保有していこうと思います。なんとも歯がゆい結果になってしまったが、マンダムの特徴がわかっただけでもよしとします。

*1:赤字企業は除いて平均を計算しました。

産業関連表を読んでみよう!

この記事では産業関連表について解説していきます。

 

目次

 

 

産業関連表とは

国や県を単位とする経済を構成する農林水産業や製造業など各産業部門は、お互いに関与しながら、生産活動をおこなっています。そして、私たち家計などの最終的な需要の部門にたいして必要な財・サービスへ提供を行っています。

ある産業部門は他の産業部門から原材料や燃料などを購入(投入)し、これを加工(労働・資本等を投入)して別の財・サービスを生産していきます。さらに、その財・サービスを別の産業部門における生産の原材料等として、あるいは家計部門等に最終需要として販売(産出)します。

一単位の経済のなかで「購入ー生産ー販売」という関係が連鎖的につながっており、最終的には各産業部門から家計、政府、移輸出などの最終需要部門にたいして必要な財・サービスが供給されています。

 

このような、財・サービスが最終需要部門に至るまでに、各産業部門間でどのような投入・産出という取引過程を経て、生産・販売されたものであるかを行列の形で一覧表にまとめたものが産業関連表です。

 

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図表1 産業関連表の構造

(出典)「平成27年(2015年)産業連関表 報告書(-総合解説編-)総務省,2021年2月,76頁。

 

図表1の表上部の見出し部分には、それぞれの財・サービスの買い手側の部門が並び、大きく分けて「中間需要部門」と「最終需要部門」から成り立っています。

一方、表左側の見出し部分は財・サービスの売り手部門が並んでいる「中間投入部分」と財・サービスの生産のために必要な労働、資本などの要素費用その他を示す「粗付加価値部分」から成り立っています。

 

経済学的な説明

産業関連表のなかでもいくつか種類があります。詳細については以下の総務省ホームページを参照してください。

 

www.soumu.go.jp

 

ホームページで説明されている通り、

取引基本表→投入係数表→逆行列係数表

の順番で数値を変えて分析を行っていきます。

 

「取引基本表→投入係数表」という変換は、各産業での単位を合わすために投入額を生産額で除しているだけなので理解しやすいと思います。

しかし、「投入係数表→逆行列係数表」という変換については何のために、どのような計算を行っているのか説明を読んだだけではなかなか理解しがたいと思います。

そこで逆行列係数表について「何のために」という経済学的な視点と「どのような計算か」という数学的な視点で解説を行っていきたいと思います。

 

まず、逆行列係数表を「何のために」という経済学的な視点でどのように役立つ点は以下が挙げられます。

 

  1. ある産業部門に一定の最終需要が発生したとき、それが各産業にたいして直接・間接にどのような影響を及ぼすのか、生産波及効果の大きさを分析することができる
  2. ある産業部門で1単位の最終需要が変化したとき、それに伴い各産業部門の生産にどれだけ変化するのか分析できる

 

「1」と「2」で分けましたが、分析しようとしていることは同じです。しかし、「どう計算するか」という数学的な視点では「1」と「2」で別の説明ができます。

 

数学的な説明

1.レオンチェフ逆行列

以下の図表2のような基本取引表をもとに説明していきます。なお、2行2列になっていますが、一般にn行n列でも結果は変わりません。

 

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図表2 産業関連表(基本取引表)

はじめに総生産額についての式を導出していきます。

 

図表2の数値から行列\textbf{A}を以下のように定義します。

 

\textbf{A}=\begin{pmatrix} {a_{11} } \; {a_{12}} \\ {a_{21} } \; {a_{22}}\:\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} {\frac{x_{11}}{X_1} } \; {\frac{x_{12}}{X_2} } \\ {\frac{x_{21}}{X_1} } \; {\frac{x_{22}}{X_2} }\:\end{pmatrix}

 

 行列\textbf{A}は投入係数行列といいます。ここで最終需要ベクトル\textbf{F}と生産額ベクトル\textbf{X}も以下のように定義します。

 

\textbf{F}=\begin{pmatrix} {F_{1}} \\ {F_{2}} \:\end{pmatrix}         \textbf{X}=\begin{pmatrix} {X_{1}} \\ {X_{2}} \:\end{pmatrix}

 

これらを使って、需給バランス式として以下のように記述することができます。

 

\textbf{A}\textbf{X}+\textbf{F}=\textbf{X}\tag{1}

 

\frac{x_{11}}X_{1}=a_{11}なので、

 

\left\{ \begin{array}{ll}\frac{x_{11}}{X_1}・X_1+\frac{x_{12}}{X_2}・X_2+F_1=X_1\\\frac{x_{21}}{X_1}・X_1+\frac{x_{22}}{X_1}・X_2+F_2=X_2\end{array}\right.

 

と計算されていることに注意してください。

 

式(1)をベクトル\textbf{X}について整理していきます。

 

\textbf{X}+\textbf{A}\textbf{X}=\textbf{F}

 

(\textbf{I}-\textbf{A})\textbf{X}=\textbf{F}

 

\textbf{I}は2×2行列の単位行列です。両辺に(\textbf{I}-\textbf{A})逆行列を掛けます。

 

\textbf{X}=(\textbf{I}-\textbf{A})^{-1}\textbf{F}\tag{2}

 

式(2)のように総生産額についての式を導出することができました。

式(2)にある(\textbf{I}-\textbf{A})^{-1}レオンチェフ逆行列と呼ばれています。この行列を使って逆行列係数表が作成されています。*1

 

2.生産波及効果について

 続いて、レオンチェフ逆行列により「ある産業部門に一定の最終需要が発生したとき、それが各産業にたいして直接・間接にどのような影響を及ぼすのか、生産波及効果の大きさを分析することができる」ことを数学的な視点から説明していきます。

 

先ほどの総務省のホームページに載っている逆行列係数表についての解説を一部抜粋します。

 

A産業で生産する財・サービスに新規需要が1単位発生した場合、A産業の生産そのものを1単位増加させる必要があることは言うまでもありませんが(直接効果)、そのためにはA産業における生産活動で用いられる原材料の投入を増加させる必要があり、A産業には0.1、B産業には0.2の生産増が発生します(間接効果(第1次))。そして、このA産業0.1及びB産業0.2の生産増のために用いられる原材料について、更なる生産の増加が必要となり(間接効果(第2次))、このような投入係数を介した波及が続いていくことになります。そして、この究極的な大きさの総和が逆行列係数に相当し、これを産業別に一覧表にしたものが「逆行列係数表」となります。 

 

つまり、ある産業部門で新規需要が発生したとき、それを生産する産業部門でも間接的に影響を及ぼしていくのです。このことを波及効果と呼んでいます。

抜粋した文章でのA産業だけに絞って考えます。A産業の新規需要一単位発生すると、直接的にはA産業の生産は0.1増加します。さらに間接的にも0.1の0.1倍増加します。これが無限に続いていきます。

 

A産業の波及効果\\=1+0.1+0.1×0.1+0.1×0.1×0.1+・・・\\=0.1^0+0.1^1+0.1^2+0.1^3+・・・\\=\displaystyle{\sum_{i=0}^∞ 0.1^i}

 

無限級数の和の法則により

 

A産業の波及効果\\=\displaystyle{\sum_{i=0}^∞ 0.1^i\\=\frac{1}{1-0.1}}

 

というように変形できます。さらにAの波及効果である0.1をAと置き、累乗を使って式を表すと

 

A産業の波及効果\\=\frac{1}{1-A}\\=(1-A)^{-1}\tag{3}

 

式変形によって導出されたこの式(3)、レオンチェフ逆行列と非常に似ていることがわかります。

 

(1-A)^{-1}⇔(\textbf{I}-\textbf{A})^{-1}

 

実際、行列でも単一の数字と同じように以下のような式が成り立ちます。

 

(\textbf{I}-\textbf{A})^{-1}=\displaystyle{\sum_{i=0}^∞} {\textbf{A}}^i\tag{4}

 

以上により、逆行列係数が新規需要の発生に伴う生産の波及が無限に続いていくことがわかります。したがって、式(4)から数学的に波及効果があることを示すことができました。

 

3.変化量について

最後に「ある産業部門で1単位の最終需要が変化したとき、それに伴い各産業部門の生産にどれだけ変化するのか分析できる」 ことを数学的な視点から説明していきます。

レオンチェフ逆行列について詳しくみていきましょう。

 

\textbf{I}-\textbf{A}={\begin{pmatrix} {1 } \; {0} \\ {0 } \; {1}\:\end{pmatrix}}-{\begin{pmatrix} {a_{11} } \; {a_{12}} \\ {a_{21} } \; {a_{22}}\:\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix} {(1-a_{11}) } \; { a_{12} } \\ { a_{21} } \; {(1-a_{22})}\:\end{pmatrix}}

 

(\textbf{I}-\textbf{A})^{-1}=\frac{1}{\det(\textbf{I}-\textbf{A})}{\begin{pmatrix} {(1-a_{22}) } \; { -a_{12} } \\ { -a_{21} } \; {(1-a_{11})}\:\end{pmatrix}}

 

\det(\textbf{I}-\textbf{A})は行列(\textbf{I}-\textbf{A})行列式のことです。

さらに簡潔にするために、以下のように置き換えます。

 

\begin{pmatrix} {b_{11} } \; {b_{12}} \\ {b_{21} } \; {b_{22}}\:\end{pmatrix}=\frac{1}{\det(\textbf{I}-\textbf{A})}{\begin{pmatrix} {(1-a_{22}) } \; { -a_{12} } \\ { -a_{21} } \; {(1-a_{11})}\:\end{pmatrix}}\tag{5}

 

 

式(5)を使って需給バランス式を表現すると

 

\begin{pmatrix} {X_{1}} \\ {X_{2}} \:\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} {b_{11} } \; {b_{12}} \\ {b_{21} } \; {b_{22}}\:\end{pmatrix}\begin{pmatrix} {F_{1}} \\ {F_{2}} \:\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} {b_{11}}{F_{1}}+{b_{12}}{F_{2}} \\ {b_{21}}{F_{1}}+{b_{22}}{F_{2}} \:\end{pmatrix}

 

 のように表せ、以下の式(6)のような連立方程式としても表せます。

 

\left\{ \begin{array}{ll}X_1={X_1}({F_{1}},{F_{2}})\\X_2={X_2}({F_1},{F_2})\end{array}\right.\tag{6}

 

式(6)を以下のようにそれぞれの変数で偏微分していきます。

 

\frac{∂{X_1}}{∂{F_1}}=\frac{∂}{∂{F_1}}({b_{11}}{F_{1}}+{b_{12}}{F_{2}})={b_{11}}

 

\frac{∂{X_1}}{∂{F_2}}=\frac{∂}{∂{F_2}}({b_{11}}{F_{1}}+{b_{12}}{F_{2}})={b_{12}}

 

\frac{∂{X_2}}{∂{F_1}}=\frac{∂}{∂{F_1}}({b_{21}}{F_{1}}+{b_{22}}{F_{2}})={b_{21}}

 

\frac{∂{X_2}}{∂{F_2}}=\frac{∂}{∂{F_2}}({b_{21}}{F_{1}}+{b_{22}}{F_{2}})={b_{22}}

 

以上の結果をふまえると、レオンチェフ逆行列が以下のような偏導関数からなる行列で表現できます。

 

(\textbf{I}-\textbf{A})^{-1}=\begin{pmatrix} {b_{11} } \; {b_{12}} \\ {b_{21} } \; {b_{22}}\:\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \frac{∂{X_1}}{∂{F_1}} \; \frac{∂{X_1}}{∂{F_2}} \\ \frac{∂{X_2}}{∂{F_1}} \; \frac{∂{X_2}}{∂{F_2}}\:\end{pmatrix}\tag{7}

 

偏導関数とは最終需要Fが一単位変化したとき、生産額Xがどれだけ変化するのかを示しています。つまり「ある産業部門で1単位の最終需要が変化したとき、それに伴い各産業部門の生産にどれだけ変化するのか分析できる」という経済学的な事象を数学的に示すことができました。

 

まとめ

今回の記事では産業関連表、特に逆行列係数表について経済学的な視点と数学的な視点の両面から説明してきました。ちなみに日本全体の産業関連表は総務省のホームページで確認することができます。作成は5年ごとに行っているようです。最新のものは2015年のものになっています。

産業関連表の考案者であるワシリー・レオンチェフはこの功績が称えられ、1973年にノーベル経済学賞を受賞しました。産業関連表は行列なので数学的に扱いやすく、経済学的にも非常に重要な分析ができます。産業関連表を読めるようになると客観的なデータから経済動向を見ていくことができます。現代社会では様々な情報が雑多に発信されています。その中には怪しげな経済アナリストや評論家、インフルエンサーなどが間違っていたり、自分の都合の良いような情報だけ切り取っているような情報も混じっています。特に経済というのは人によって、解釈や予測が違うことが多々あります。そのようななかでも、産業関連表のような1次データに近い情報から自ら意思決定を下せるようになることが重要になっています。そのためには1次データに近い情報を取得し、読み解ける力が必要です。この記事がその力の一助となれば幸いです。

*1:なお、実際は輸入についても扱っているのでもう少し複雑な式になっています。