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所有株がTOB(株式公開買付)されるときの対処方法

 

3月5日の大引け後に株式会社イグニス(以下「イグニス」といいます)がTOBされると発表されました。

 

maonline.jp

 

私自身、イグニスの株を所有していました。しかし、株を初めてまだ1年程度でもちろん所有していた株がTOBされるなんて初めてです。そもそもTOBとはなにかよくわかっていませんでした・・・

 

この記事ではTOBの概要と所有していた株がTOBされた際の対処方法について、実際にTOBされるイグニス株で具体的に解説していきたいと思います。

 

1.TOBの概要

はじめにTOBについて説明していきます。TOBは"Take over bit"の略で日本語では株式公開買付といわれていて、公開企業の支配権や経営権を取得したり強化する目的で、市場外で対象の株式を短期間に大量に買い付けることです。

 

上場企業の経営陣は、株主からの要求を受けながら経営方針を決定します。しかし、企業が業績悪化などで事業再編を速やかにしたいのに、大勢の株主がいると利害の調整が進まずに難航することがあります。

イグニスは「マッチング事業」や「エンターテック事業」、「ゲーム事業」と流れが早く、競争の激しい事業を展開していました。そんななか事業の再編成にスピードが求められるのは言うまでもありません。しかし、株式会社という性質上、多くの株主の意見を尊重しなければいけません。そして、なかなか機動的で柔軟な事業展開ができていなかったと思います。

 

そのような状況を早急に解決するために、企業の経営陣がTOBを行い既存株主から経営権を取得するという手段が実行されます。すると株主との利害調整がなくなり、機動的かつ柔軟に経営を行っていくことができます。このことを特にMBO"Management Buyout"といわれ「経営陣買収」と訳されます。

つまり、経営陣が株主から経営権を取得するために自社の株式を買うとき、市場外で大量に買付を行うのです。MBOが目的でTOBという手段が行われるのです。

 

イグニスもこのケースになります。具体的にみていきましょう。

まず、イグニスを買い付ける「公開買付者」は株式会社i3(以下「i3」といいます)です。i3は本件の公開買付を通してイグニス株を所有することを目的として設立された法人です。株主と議決権の割合は以下のようになっています。

 

株主

議決権の割合

銭錕(イグニス代表取締役社長)

25%

鈴木貴明(イグニス代表取締役CTO)

25%

ベンキャピタル(米大手投資ファンド

50%

 参照:株式会社i3による公開買付説明書(https://www.nomura.co.jp/retail/stock/tob/pdf/3689.pdf

 

見てわかるように議決権の半数はイグニスの経営陣である銭錕氏と鈴木貴明氏が所有しています。

今後、このi3がイグニスが発行している株式を全て強制的に買い付ける予定です。つまり、イグニスの経営陣が実質的に半数の議決権を取得し、イグニスの経営を支配することになるのです。

 

2.TOBが実施されたときの株価の動き

続いて、TOBされた株価について解説していきます。実はTOBされる銘柄の株価は急上昇します。その仕組みを説明していきます。

 

TOBをする際、買付者は投資家から全ての株式を買収必要があります。もしも、市場のなかで大量の株式を買おうとする動きがわかればどうなるか考えてみます。勘のいい投資家なら買収者の意図を汲み取り、株価が最大限まで上昇するまで意地でも所有してしまうでしょう。そのようなことになると買収者も困るので、市場の外で大勢の投資家をある程度の買付価格で説得して取得します。

こうなるとこの話を知らない個人投資家たちにとっては

「市場で手放すチャンスもないまま、投資していた上場企業がいつのまにか経営方針の全く異なる買収者に買い占められていた」

とういことになってしまいます。こんなことではその個人投資家は保護されません。そこで、公開買付制度というものが決められました。これは、市場を通さずに大規模な買収をする、というシナリオを主に念頭に置いて買収者に対し、そのような買収をする場合には世間に情報公開するようにします。同時にその株式を保有している個人投資家たちに売却するチャンスを与えます。また、その株主の希望があれば買収者はその株主からも株式を買わなければならないように定められています。

 

公開買付が行われる際、公開買付者は買付価格を提示しなければいけません。買付価格は時価に何割かプレミアムをつけられます。先ほどもいった通り買付は市場外で行われ確実にプレミアムがついた価格で売りつけることができます。公開買付が発表されると市場での時価とプレミアムがついた買付価格との差額を狙う投資家たちが市場で買い注文を起こします。結果的に市場価格も買付価格と同程度の価格に急上昇するのです。

 

実際にTOBが発表されたあとのイグニス株がどのように動いていったのか見てみましょう。

 

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図1 イグニスの株価チャート


図1は2021年1月4日から3月17日現在までのイグニスの株価チャートです。

TOBが発表される以前の3月5日までは1400円~2500円の間で株価が上下していました。しかし、TOBが発表されて初めての取引である8日に株価が急騰しました。ストップ高で8日は+400円、9日は+500円となり10日以降は2992円で株価が落ち着きました。

イグニス株は3000円で買付られると発表されていました。結局、市場で売ったとしても一株8円程度下がるだけになって返ってくるとわかります。

 

なお、公開買付にしたがってTOBに申し込むにはTOBの買付代理人となっている証券会社に口座を作って株式を移管しないといけません。もちろん、もともと取引していた証券口座が買付代理人ならそのままTOBに申込みするだけなので、それほど手間はかかりません。しかし、私も含めて買付代理人の証券口座で取引していれば移管の手続きが必要です。

また、売却なら比較的すぐに資金が返ってくるのですが、買付に応じればTOBの決済日まで待たなければいけません。イグニスの場合、決済日は4月20日となっており、もし3月8日早速TOBに応募したとしても一か月以上資金が入ってくるのを待つことになります。
 所有していた株式数が少なく、多少の株価が少なくても妥協できる方なら市場で売却するのが得策かもしれません。

 

私もイグニス株は100株しか持っておらず、もともと楽天証券で取引していて買付代理人である野村證券の口座もなかったので市場で売却しようと思っていました。しかし、市場で株価を売却するという手続きはやったことがあるのですが、株式移管や公開買付の応募はやったことがありません。ちょうどいい機会なので、今回はあえて市場での売却はせず、公開買付の応募をしていきたいと思います。

 

3.公開買付の応募手続き

 それでは、公開買付の応募をやってきましょう。ステップとしては以下の3つです。

 

  1. 買付代理人となる証券会社の口座開設
  2. 現在所有している証券口座から買付代理人の証券口座への株式移管
  3. 公開買付の応募

 

 

1.買付代理人となる証券会社の口座開設

今回、イグニスのTOBで買付代理人となるのは野村證券です。早速、野村證券の口座開設のサイトにいくとネット・郵送・電話での対応となっていました。ここではネットを選択し、さらにネットでの口座開設は「かんたん口座開設」と「スピード口座開設」の2種類がありました。「かんたん口座開設」なら最短で5日、PCやスマホマイナンバーカードか本人確認書類+通知書が必要で、「スピード口座開設」はマイナンバーカードとICカードリーダライタ、PCが必要とのことでした。

 

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図2 野村證券の口座開設画面

 

公開買付の期間は4月19日までと時間にそこまで余裕がなく、マイナンバーカードも持っていたので「スピード口座開設」をすることにしました。

 

余談ですが、マイナンバーカードは今後このような手続きで必要になったり、保険証のかわかりになったりと割と便利になっていくので作ってない方は作っておくことをお勧めします。今なら、マイナポイントとかもあるので。

 

さて、話を戻して手続きに進もうと思ったのですが、ICカードリーダライダを持っていませんでした。町の家電量販店に行って、2700円で購入しました。思ったよりも高かったのですが、確定申告やその他いろいろ使っていけるかもしれないので、買っておいて損はないと思います。

必要なものはそろったので、口座開設していきましょう。

 

 サイトから「スピード口座開設」を選択していき、メールなどを登録します。進んでいくと以下の図3が現れます。

 

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図3 口座開設に伴うマイナンバーカードの提供画面

 

ここではマイナンバーカードの情報を提供するための手続きを行います。書いている通りに進めて行けばそこまで問題ないでしょう。あえて注意するなら、Javaのアプリケーションをダウンロードするので、お使いの環境に合ったものを調べておいてください。

 

あとは指示にしたがってマイナンバーカードをICカードリーダライダで読み込ましたり、情報を入力していくと申込みが完了します。私の場合、午前11時に申込みして午後2時ごろに口座開設が完了しました。さすがに「スピード口座開設」というだけ早かったです。


2.現在所有している証券口座から買付代理人の証券口座への株式移管

次に株式移管をしていきましょう。

私の場合、イグニス株を楽天証券の口座で持っているので、ここから先程開設した野村證券の口座に移管します。

 

PCかスマホどちらでもできますが、今回はPCの画面から説明していきます。

まずは楽天証券のマイページに行きます。右上にある「マイメニュー」を押して、「移管・買取請求」を選択してください。

 

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図4 楽天証券マイページ

 

すると図5のような画面になります。

 

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図5 楽天証券 株式移管画面

 

ここで、

日本株式」→「楽天証券から他社へ」

の「申込」を選びます。

 

次の画面で、移管先証券会社の情報を入力していきます。

順番に入れていきましょう。

 

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図6 楽天証券株式移管申込み画面

野村證券の 口座情報は野村證券の証券口座ログイン画面から右上の方にある「口座情報/手続き」→「お客様情報照会/変更」から確認できます。

後は間違えないように手続きを進めていけば申込み完了です。

 

現在、私もここまでの手続きが完了しており、移管されるのを待っている状態です。

手続きできているかは楽天証券の図5の画面の左上の方にある「手続中照会・取消」へ移り、期間や申込日を選ぶ項目があるので、みたい期間を設定すれば確認することができます。

 

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図7 楽天証券株式移管申込確認画面

 

なお、ここで状況が「取次不可」になっていれば移管できていないので再度申込みする必要があります。

 

また、株式移管受付停止期間があることに注意してください。月によって変わりますが、月の下旬は受付できない日が多くなっています。以下のページで確認しておきましょう。

 

member.rakuten-sec.co.jp

 


3.公開買付の応募

 野村證券の証券口座へ移管が完了すれば、公開買付の申込みに進みます。ここは私自身まだできてないのですが、わかる範囲で説明していきます。実際の手続きが進めば、この記事も更新していきます。

 

まず、野村證券の証券口座ログインページの

「取引」→「TOB(公開買付)」

と進みます。すると現在TOBを受付ている銘柄がでてきます。ここからイグニスを選んで申込みを進めていくようです。

 

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図8 野村證券TOB申込受付画面

 

先ほども言いましたが公開買付の期間は4月19日までです。締め切りまでに申込みをしなくても強制的にイグニス株が買付される手続きが進められます。このことをスクイーズアウトといいます。しかし、これは資金化できるのがかなり後になってしまいます。市場での売却か公開買付の応募をしておいた方が得策だと思います。

 

まとめ

TOBの概要やTOBされた株式の処理方法について説明してきました。この記事に書かれていることが理解できれば、今後所有している株がTOBされても慌てることはないでしょう。

私はTOBの知識もその後の手続きなど、なにもかも知りませんでした。ただ、今の時代は検索すれば、ほとんどのことがわかります。あとは実際に試行錯誤していきながらやっていけば何とかなります。

 

最近、実感として株式投資に関心がある方が増えてきたと思います。ただ、あくまでも関心があるだけで証券口座すら開設していない人がほとんどです。とりあえず、関心があるならスマホで検索して何をすればいいのかくらい調べてみましょう。人に聞いてアドバイスをもらうくらいならさっさとググってしまいましょう。

 

また、投資すると言いながら、資金がないからとかいい銘柄が見つからないと言って全然行動に移さない方がいます。調べればわかるように少額でもできる投資はあります。また、銘柄探しはある程度にしてとりあえず、気になる銘柄を買ってみたらいいと思います。実際にやり始めればわかるとおもいますが、買ってしまった以上、その銘柄について自発的に情報を仕入れるようになります。買う前より、むしろその銘柄についてより調べるようになりました。

 

とりあえずやってから考えるというスタンスでいることが投資に関心ある方や初心者には必要だと私は思います。仮に損失を出してもそこに至るまでの経験や学んだことは、はじめの少額くらいなら勉強代と思えば安いものです。

 

皆さんもぜひ、とりあえずやってから考えましょう。

 

 

 

参考文献

  • 池田成史 『法律から見えてくる「金融」の未来』 株式会社クロスメディア・パブリッシング 2019