お金の算数

ローンや資産運用について数学的見解を交えて考察しています

現代ポートフォリオ理論の実践【1/2】

はじめに

毎月3万円、インデックスファンドに積み立て投資しています。株価は右肩上がりで資産は順調に増加しています。しかし、あくまでもインデックスファンドなので、リスクが小さく、リターンもそれほど大きくありません。

 

よくばりな私は少し物足りなさを感じたので、多少お金が貯まったタイミングで個別株を買ってしました。しかも一部上場しているような大企業ではなく、株式会社イグニスというマザーズに上場しているIT系の小型株です。どうせ個別株を保有するのなら、今持っているローリスクローリターンのインデックスファンドとは真逆であるハイリスクハイリターンのほうが面白いと思い購入に至りました。実際に保有してわかるのですが、毎日大きく株価が動きく変動しています。

 

リスクを避けたいという動機から積み立て投資でインデックスファンドを保有しているのですが、リターンも高くしたいという気持ちもあるので小型の個別株にも投資していしまいました。株式投資でのリスクとリターンは二律背反で、あちらが立てばこちらが立たずという関係になっています。つまり、リスクを抑えたければ、低いリターンで我慢するしなければいけません。その逆に、大きなリターンを得たければ、大きなリスクを許容しなければいけません。それでもよくばりでありながら小心者の私は、少しでもリスクを抑えつつ最大のリターンを得たいと思っています。そこで、今回はそんな小心者のよくばり人間の願いを数学的に解決する現代ポートフォリオについて解説していきたいと思います。

 

 

ポートフォリオのリターンとリスク

そもそのポートフォリオとは債券や株券をまとめたファイルのことを言います。それが最近では株式などのいろいろな資産の組合せという意味で使われるようになりました。現代ポートフォリオ理論とは名前の通り、ポートフォリオの組み方に関する理論です。この現代ポートフォリオ理論がすごいのは投資のリスクだけを減らして、リターンを得ることができることを数学的に証明したことです。この理論によってアメリカの経済学者であるハリー・マーコウィッツが1990年にノーベル経済学賞を受賞しました。

 

早速、この理論について説明していきたいのですがとりあえず、重要なワードを説明しておきます。

 

  • 平均リターン(期待収益率)

まず、リターンRとは現時点から将来時点における利益または損失を現時点における価格で割ったものです。

 

{R_t}=\frac{S(t)-S(t-1)}{S(t-1)}

 

このリターンが1~nまであった場合、平均リターン(期待収益率)E(R)は以下のように計算されます。

 

E(R)=\displaystyle{\frac{1}{n}}{\sum_{t=1}^{n} {R_t}}

 

 投資の世界でのリスクは株価のリターンにおける変動の大きさと定義されています。株価が下がることだけがリスクではなく、株価が上がったり下がったりして変動することがリスクとして定義されていることに注意してください。統計学ではデータのばらつきを分散または標準偏差というもので示します。

各データRから期待値であるE(R)を引いた値を偏差と言います。そして、その偏差をそれぞれ二乗し、期待値をとったものを分散といいます。標準偏差は分散の平方根をとったものです。リターンの分散V(R)は次のように計算されます。

 

V(R)=E(((R-E(R))^2)=\displaystyle{\frac{1}{n}}{\sum_{t=1}^{n}( {{R_t}-E(R)})^2}

 

さらにこの分散は式をみてわかるように、二乗されています。このことからデータの単位を合わすために平方根をとり、標準偏差sを定義します。

 

s=\sqrt{V(R)}=\sqrt{\displaystyle{\frac{1}{n}}{\sum_{t=1}^{n}( {{R_t}-E(R)})^2}}

 

  • 共分散

共分散は2変数のデータが一緒に上がったり、下がったりする相関関係の度合いを表すものです。例えば、株式Aと株式Bの株価を変数とするデータがあるとします。ある時点の株式Aの株価が上がったとき株式Bの株価も上がる(または下がる)という傾向があるかを調べるための指標です。もし、一方が上がれば、もう一方も上がるという傾向があれば、共分散は正の値になります。逆に一方が上がっているが、もう一方は下がっていれば、共分散は負の値になります。ここで、株式Aによる株価のリターンを{R_A}、平均リターンをE({R_A})とし、株式Bによる株価のリターンを{R_B}、平均リターンをE({R_B})とします。ここから共分散Cov({R_A},{R_B})は以下のように表せます。

 

Cov({R_A},{R_B})=\displaystyle{\frac{1}{n}}{\sum_{t=1}^{n} {({R_{At}}-{E({R_A})})({R_{Bt}}-{E({R_B})})}}

 

 相関係数は共分散と同じく、2変数の相関関係の度合いを示し、加えて相関関係の強さも表します。1から-1までの値をとり、1に近づけば近づくほど一方が上がれば、一方も上がるという正の相関が強いとわかります。また、-1に近づけば近づくほど、一方が上がれば、もう一方は下がるという負の相関が強いとわかります。さらに、0であれば、2変数のそれぞれのデータに相関関係がないとわかります。相関係数ρは数式としては以下のように共分散を2つの変数の標準偏差の積で割って求めることができます。

 

ρ_{A,B}=\frac{Cor({R_A},{R_B})}{{\sqrt{V(R_A)}}{\sqrt{V(R_B)}}}

 

それでは、ここからは2つの株式からなるポートフォリオの平均リターンとリスクを解説していきます。株式Aの平均リターンをE({R_A})、株式Bの平均リターンをE({R_B})とします。株式Aと株式Bからなるポートフォリオを所有していたとして、株式AをW_A、株式BをW_Bの比率(W_A+W_B=1)で組み入れたポートフォリオの平均リターンE({R_p})は次のように計算できます。

 

E({R_p})={W_A}{E({R_A})}+{W_B}{E({R_B})}={W_A}{E({R_A})}+(1-{W_A}){E({R_B})}

 

式からわかるようにポートフォリオの平均リターンは、それぞれの株式の平均リターンの加重平均となっています。

 

続いてポートフォリオのリスクを求めていきます。リスク(標準偏差)を計算するためには、先に分散を求めなければいけません。

 ここでは株式Aと株式Bという2つの株式のポートフォリオの分散を求めるにあたって、一般的に成り立つ2つの重要な性質を説明していきます。

 

1つ目の性質は個々のデータにある定数が乗算及び加算されているとき、分散が以下のようになることです。

 

V(aX+b)=a^2V(X)

 

これについては、ポートフォリオでのそれぞれの組み入れの比率W_AW_Bを考慮すべき時に必要になります。

この性質が成り立つことを証明していきましょう。ここでは分かりやすいようにE(X)=μとします。

 

V(aX+b)=E(((aX+b)-E(aX+b))^2)

 

=E({(aX+b-(aμ+b))^2})

 

=E({(aX+b-aμ-b)^2})

 

=E({(aX-aμ)^2})

 

ここで期待値の中身の部分を抜き出します。

 

(aX-aμ)^2=a^2X^2-2a^2μ+a^2μ^2

 

=a^2(X^2-2μ+μ^2)

 

=a^2(X-μ)^2

 

これをもとに戻します。

 

=E(a^2(X-μ)^2)

 

=E(a^2)E({(X-μ)^2})

 

E({(X-μ)^2})=V(X)より

 

=a^2V(X)     ▢

 

 

2つ目はそれぞれのデータを足したときの分散についての性質です。X、YのデータがあったときXとYを足したデータの分散V(X+Y)は以下のようになります。

 

V(X+Y)=V(X)+V(Y)+2Cov(X,Y)

 

 これについても証明していきましょう。ここでも同じようにE(X)=μ_xE(Y)=μ_yとします。

 

V(X+Y)=E({({(X+Y)}-{({μ_x}+{μ_y})})^2})

 

=E({(X+Y-{μ_x}-{μ_y})^2})

 

ここで期待値の中身の部分を抜き出します。

 

{(X+Y-{μ_x}-{μ_y})^2}

 

=X^2+2XY-2Xμ_x-2Xμ_y+Y^2-2Yμ_x-2Yμ_y+{μ_x}^2+2{μ_x}{μ_y}+{μ_y}^2

 

=(X^2-2Xμ_x+{μ_x}^2)+(Y^2-2Yμ_y+{μ_y}^2)+2(XY-Xμ_y-Yμ_x+{μ_x}{μ_y})

 

=(X-{μ_x})^2+(Y-{μ_y})^2+2(X-{μ_x})(Y-{μ_y})

 

これをもとに戻します。

 

=E({(X-{μ_x})^2+(Y-{μ_y})^2+2(X-{μ_x})(Y-{μ_y})})

 

=E({(X-{μ_x})^2})+E({(Y-{μ_y})^2})+2E({(X-{μ_x})(Y-{μ_y})})

 

E({(X-{μ_x}})^2)=V(X)E({(Y-{μ_y}})^2)=V(Y)E({(X-{μ_x})(Y-{μ_y})})=Cov(X,Y)より

 

=V(X)+V(Y)+Cov(X,Y)            ▢

 

この式からわかるようにXとYの共分散がプラスになれば分散は大きくなり、逆に共分散がマイナスになっていくほど全体としての分散は小さくなります。この性質が現代ポートフォリオ理論で大きな肝となってきます。

 

これら2つの性質を使い株式Aと株式B、2つの株式からなるポートフォリオの分散は以下のようになります。

 

V({R_p})={W_A}^2{V({R_A})}+{W_B}^2{V({R_B})}+2{W_A}{W_B}Cov({R_A},{R_B})

 

先ほども言ったとおり、共分散であるCov({R_A},{R_B})がマイナスになればなるほどリスクが小さくなります。直感的にも、株価が一方が上がれば一方が下がるという負の相関関係がある2つの株式の組合せであれば、お互いの株価変動が相殺されることがわかります。

これがリターンが変わらないにもかかわらず、リスクを減らすことができる種明かしとなります。

 

ちなみに共分散はあくまでも相関の傾向がわかるだけの指標であって、相対的に相関関係がどれほどなのかを調べるには、相関係数を計算する必要があります。

 

続いてポートフォリオを構成するにあたって、重要になってくるのがそれぞれの株式の構成比です。どのような構成比でポートフォリオを作るのが投資家にとって最適なのか?このことについては、次回実際のデータを使って説明していきたいと思います。